シナリオ』(中経出版)
しかし、翻ってみると、日本国内でも米国とはまったく中味は違うものの、「日本版財政の崖」が目前に迫っており、政府の財政が枯渇し景気の悪化を招く可能性が高まっている。
日本版財政の崖の正体は、『特例公債法案の不成立』だ。12年度予算では、一般会計歳入総額90.3兆円のうち、44.2兆円が国債など公債の発行で賄われることになっている。この44.2兆円のうち約87%が特例公債(いわゆる赤字国債)となっている。
特例公債を除く歳入は、税収とその他収入を合わせた46.1兆円と4条公債(いわゆる建設国債)の5.9兆円となる。4条公債とは、財政法4条の但し書きに基づいて発行される国債で、国会で調達資金の使い道を定めた『予算総則』に規定してある公共事業費にのみ、使うことができる。建設国債と呼ばれる由縁だ。このため無闇に発行できず、財集不足を補うためには、特例公債(赤字国債)の発行が必要になる。
赤字国債は例年発行されているが、財政上は特例として発行されているため、毎年、特例公債法案として国会の予算審議の過程で、承認を得なければならない。第180回通常国会では、8月28日に衆議院で可決された特例公債法案は、参議院で審議未了のまま、廃案となり、9月7日に国会は閉会した。
野党自民党は特例公債法の成立を“人質”に取り、法案を成立させるための条件として衆議院の解散・総選挙を野田佳彦首相に迫った。特例公債法案の成立が“政争の具”として使われた結果、法案が廃案となり、赤字国債が発行できない状況に陥っている。
予算が成立しているのだから、政府は予算に沿った支出を認められていることになる。しかし、財政法第12条では、「各会計年度における経費は、その年度の歳入を以って、これを支弁しなければならない」と規定している。つまり、支出をするためには、その年度の歳入がどうしても必要なのだ。
●最後の綱は、臨時国会での成立
一部では、財務省証券(政府短期証券)を発行して赤字国債の代替措置とすれば良いという議論が聞かれる。だが、それも難しい状況にある。財務省証券は、国庫金の出納上で、必要がある場合に資金繰りを目的として、国会で議決された範囲内で発行が認められている。その上、財務省証券は財政法第7条2項により、当該年度の歳入で償還しなければならないと定められている。つまり、特例公債の発行が難しい現状において、財務省証券を発行しても、その償還資金となる歳入が見込めない状態にあり、財務省証券の発行は事実上、困難というわけだ。