しかし、そうした経験則は通じなかった。11年12月29日、加藤氏はさらなる株価上昇を予想した。
「12月12日の高値930円までは大量の出来高をこなし順調に買いの回転が効いていましたが、株価がさすがに4倍以上にもなると、利食い玉(ぎょく)の売りによって値動きが重くなってきます。しかし、その利食い玉も既に相当消化されており、今後一日平均で200万株の出来高と想定した場合、立会い日数にして15日間、来年の1月24日以降には上値が軽くなって意外と簡単に930円の高値を抜いてくることも十分考えられます。大阪証券金融での400万株の空売り残に加えて、来年3月には250万株以上の『隠れた空売り』の期日が到来します。この株式(新日本理化)のヤマ場は既に述べた通り来年の3月であると考えるのが妥当であると思います」
この加藤氏の予想を受け、12年に入り株価は暴騰。3月2日には1297円の最高値を更新した。サイト開設から4カ月で、実に4.7倍にまで上昇した。
今回の強制調査に当たり、証券取引等監視委員会は「新日本理化についての書き込みは、株価をつり上げるために行われた」として、金融商品取引法に違反する風説の流布の疑いに当たるとみている。
外れた予測
「時々の鐘の音」は13年7月8日に更新が途絶えた。最後の書き込みでは、「般若の会代表 加藤あきら」名で、とてつもない値段を付ける出世株が取り上げられている。
「400円で700万株近くのカラ売りを抱え込んだ日本〇〇〇〇〇工業(株)の株価はいつ爆発するのか括目してやみません。カラ売りの積み上げ相場に発展すると300円の株価が5000円台まで成長した兼松日産農林のような大相場になる可能性があります。(中略)直近、7月4日の引け値は、709円でした。785円の高値が、適正なる日柄調整を経て、いつ抜かれるのか。カラ売りの積み上げ相場に発展するのかどうか。兼松日産農林の時の600円台の動きに酷似しているだけに、注目が怠れません」
「日本〇〇〇〇〇工業」とは、東証1部に上場している三菱系化学肥料会社、日本カーバイト工業のことだ。だが、「兼松日産農林のような大相場になる」との加藤氏の見立ては外れた。7月8日に794円の最高値をつけただけだった。日本カーバイト工業の予測が外れたためかどうかは定かではないが、サイトは閉鎖され、以後、加藤氏が表舞台に登場することはなかったが、今回の調査で表舞台に引きずり出された。
証券会社関係者は「般若の会がアウトなら、ネットの掲示板や個人のブログは軒並み取り締まらなければいけなくなる」と指摘する。強制調査が明るみに出てから、いくつかの類似サイトが閉鎖された模様だが、一罰百戒の効果は確かにあったといえよう。
完全に煽りを食らう格好になった新日本理化の株価は3月12日、一時前日比20円安の232円まで下げ、東証1部の値下がり率トップとなった。翌13日も3円安の233円で終わった。12日、13日とも日経平均株価は暴騰しており、新日本理化の不振ぶりが目立った。
(文=編集部)