これまでこうした役割を果たしてきた国際機関は、国際通貨基金(IMF)やアジア開発銀行(ADB)だったが、日米欧の国々と比べて、世界第2の経済規模を持つ中国や近年成長の著しい新興国の発言権が限られていたことなどから、中国自らが中心となって新たな国際金融組織を構築して対抗しようとするものだ。AIIBは中国が最大の出資国となり、資本金は1000億ドル(約12兆円)。本部は北京に置かれ、初代総裁も中国人となる方向だ。
15年3月末に創設メンバーになるための申請期限を迎え、これまで参加表明した国は50カ国・地域を超えている。東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国が参加表明しているほか、韓国、インド、そしてサウジアラビア、エジプトなどの中東諸国、先進7カ国(G7)では英国、ドイツ、フランス、イタリアが含まれている。
その一方で、日本と米国は参加する意向を表明していない。その理由は、中国が過度の支配力を持ちかねず、運営や審査の透明性、中立性などに疑問や懸念があるとしているからだ。
だが、日本のこうした対応については批判も出ている。具体的には「なぜG7の諸国の中で英仏独の3カ国が参加しながら、日本は対応が後手に回っているのか」「財務省や外務省の対応は甘かったのではないか」といった内容だ。
●日本政府の誤算
日本政府にとって誤算だったのは、当初、参加しないと見られていたイギリスが土壇場になって参加を決めたことだった。他のG7主要国やアジアの多くの国が参加の意向を示していることがわかり、3月末になって政府与党でようやく真剣に検討し始めたというお粗末ぶりだった。
日本政府が参加に及び腰になる理由は容易に想像できる。日本政府はすでにADBに多額を出資し、歴代総裁には財務省OBが就いている。AIIBという新たな国際組織が生まれると、アジアにおけるADBの影響力が低下するとの懸念が強かったからだ。さらにいえば、アメリカが積極的でないことをいいことに、財務省が参加に後ろ向きで、その結果政府内で真剣に議論するタイミングを得られなかったからである。野党側は外交上の失政だとして今後追及を強める構えだ。
確かにこれほどまでの参加国があるとは想定しておらず、政府として明らかに判断を誤ったといえるだろう。今後はAIIBが透明性を保ったガバナンス体制を確立し、国際ルールに則った行動ができるかを、日米が連携して見極めることが重要である。その上で、たとえ出資を伴って参加しなくても外部から意見を述べることや、運営ノウハウを助言するなど積極的な関与に踏み出すことも必要だろう。
(文=中原宏実/経済ジャーナリスト)