同タワーは、劇場と遊戯施設、飲食店などの複合施設だが、マルハンと松竹は建設費の高騰を理由に設計を見直している。3月28日付日本経済新聞では、建設の遅れについて「マルハンと細部を検討中」(松竹)、「公演内容も含め、劇場の形を見直している」(マルハン)と伝えている。建設計画をめぐり、松竹とマルハンの不協和音が表面化したかたちだ。
浅草六区を再びエンタメの聖地に
日本初の電動エレベーターを備えた、高さ52メートルの八角塔・凌雲閣(通称・浅草十二階)は1890年に誕生した。しかし、1923年に発生した関東大震災によって倒壊してしまう。
「浅草六区に凌雲閣を再建させたい」というのが、地元である台東区の長年の夢だった。12年には、隣接する墨田区で東京スカイツリーが開業し、同タワーの建設計画を後押しした。
さらに13年4月、マルハンと松竹、大手芸能事務所のアミューズ、浅草観光プランナーのセグラスグループホールディングスの4社による共同出資会社のTOKYO 六区 CITYが設立された。同年6月、同社は「浅草六区再生プロジェクト」を発表する。
浅草寺の西側に位置する浅草六区は、明治から昭和にかけて演劇、映画、寄席などが集まる日本最大の興行街として繁栄した。しかし、テレビの普及や娯楽の多様化という時代の流れもあり衰退、12年には残された5つの映画館も閉鎖された。
同プロジェクトは、官民一体となり、エンターテインメントで浅草六区を活性化させ、多くの人でにぎわう街づくりを推進するというものだ。そして、その第一弾がマルハン松竹六区タワーだった。
同タワーは、凌雲閣を模した地下1階、地上8階建てとなる予定で、タワー内には3層階にまたがる遊技場や、映画上映も可能な500席の中劇場、300席の小劇場のほか、飲食店も入る構想だ。
劇場で上演されるコンテンツは、興行主となるTOKYO 六区 CITYがセレクトする。同社のゼネラルプロデューサーには、アミューズの大里洋吉会長が就任しており、中劇場、小劇場ともに世界を視野に入れた展開が予定されていた。
現在、浅草には国内外から年間2000万人以上の観光客が訪れる。マルハン取締役で、TOKYO 六区 CITY社長に就任した韓俊氏は、「初年度は200万人の来場者を見込んでいる。台東区が行った調査では、観光客の浅草滞在時間は2.5時間だが、東京スカイツリーなどの周辺部も合わせると5時間にまで拡大する。にぎわいのある、魅力的な観光拠点として再生させたい」と語る。
プロジェクトは白紙撤回の可能性も
しかし、地元の期待に反して、プロジェクトは遅々として進んでいないのが現状だ。
最大のネックは、年間集客200万人の実現可能性だ。隅田川を挟み、東京スカイツリーと浅草寺は新旧ランドマークとして存在するが、観光客はその2つだけが目的の場合が多く、その周辺にまで足を延ばすことは少ない。
効率的に各所を回りたいと考える観光客が、長時間を費やす観劇に足を運ぶとは考えづらい。観劇目的で観光客を集められるのは、歌舞伎座ぐらいだろう。
同タワーの建設計画において、松竹とマルハンの思惑にズレが生じてきた感は否めない。両社の意思統一を図らない限り、着工は無理だろう。これ以上遅れるようなことがあれば、プロジェクトの白紙撤回もあるかもしれない。
(文=編集部)