リオ五輪・パラリンピックが終わった。懸念されたジカ熱の拡散は起こらなかったようだ。
ところが、問題はまったく別の地域で起こった。それは東南アジアだ。シンガポールでは8月30日までに感染者が82人に増え、タイでは年初からの感染者が100人を超えた。さらに9月3日、マレーシアでは、心臓病で亡くなった61歳の男性がジカウイルスに感染していたことが判明した。原疾患を悪化させた可能性がある。
実は、東南アジアでジカ熱が流行する可能性は、以前から指摘されていた。この地域にはジカ熱を媒介するネッタイシマカやヒトスジシマカが生息するからだ。過去にもジカ熱の流行が確認されている。東南アジア全域は中南米や東アフリカと並び、ジカウイルスが蔓延する地域だ。大流行しないのは、この地域では過去に流行を繰り返しているため、住民がある程度の免疫を持つからだ。
経済発展する東南アジアには、多くの日本企業が進出し、大勢の日本人旅行者が押し寄せる。免疫を持たない日本人にとって、中南米以上に危険な地域になる可能性が高い。過去にタイなどから帰国した日本人がジカ熱と診断されたこともある。しかしながら、このことは、ほとんど話題にならなかった。
近年、日本でジカ熱が流行するリスクは高まっている。温暖化、およびグローバル化の進展により、東南アジアの熱帯病が周辺地域に「輸出」されているからだ。日本にはジカウイルスを媒介するヒトスジシマカが生息している。ウイルスが持ち込まれれば、流行してもおかしくない。
2014年夏、東京・代々木公園の訪問者を中心に日本でもデングウイルスの感染者が出た。8月から10月の間に合計160人がデング熱と診断された。
このときデングウイルスの流入経路のひとつと考えられたのが中国だ。この年、中国で報告されたデング熱発症者は4万7331人であった。大部分が広東省、特に広州市で発症した。これは13年に比べ10倍、12年に比べ80倍の患者数だ。15年度の感染者数は3884人に減ったものの、予断は許さない。
胎児への影響は過小評価
デングウイルスとジカウイルスは、同じフラビウイルス属に属し、同じ種類の蚊が媒介する。いずれも、中南米、東南アジアに蔓延している。デングウイルスが広東省で大流行し、日本にも入ってきたのだから、ジカウイルスも似たような展開を示すと考えていいだろう。
西浦博・北海道大学教授(公衆衛生学)らは、海外でジカ熱に感染した人が、今年中に日本国内で別の人に感染させるリスクを17%と推定している。中国の41%、台湾の37%よりは低いが、無視できる数字ではない。ちなみに、この推計ではリオ五輪の影響は考慮されていない。