メンズヘルスクリニック東京は1999年に日本で初めて開院した頭髪(発毛)治療専門クリニック。小林一広院長は「病いはケから」をキーワードに、2つの「ケ」である「気」と「毛」の健康との関係を長年研究。精神的なストレス(気)が病気を招くこと、薄毛や抜け毛がエイジングによる老化のサインとなることを指摘。
「目指せ、フサフサピンピン!」というキャッチコピーを掲げて、テストステロンを通じた自身の持論を展開する。
現在、薄毛の悩みを抱える人口は1200万人にも上るといわれる。その数は上昇傾向にあるとされるが、小林院長にこの問題を尋ねると、薄毛の悩みは今に始まったことではないと話す。
「まず最初に、どこからが薄毛かという定義はないんです。薄毛に悩む人数が増えていると聞いても、本当なんだろうかと思います。悩んでいる人は昔からいましたが、治療する場所がどこにもなかったから行かなかっただけかもしれません。薬がその後いろいろと登場してきて、効果があるとなったから患者さんもそういう場所へ足を運び出した。患者さんが増加したから悩みも増加しているということではないと考えています」
また、薄毛の問題に関しては男性女性問わず、避けては通れない問題であるといい、「加齢現象ですから、年齢を重ねていろんな細胞が衰えてきて、そのうち毛根の細胞が髪をつくりにくくなる。これは自然な流れなんです。そこに個人差が絡んできて、60歳すぎてフサフサな人もいれば、30代であっという間に髪が薄くなるという人も出てくる。不公平が生まれるならそこでしょうね。頭はなかなか隠せない。すべて露呈してしまう。だから髪について人から自分はどう見られているんだろうという悩みにつながるのです」と述べ、その薄毛の悩みがストレスを生み、健康問題にも影響を与えると警笛を鳴らす。
薄毛治療の費用はどのくらい?
薄毛の原因について小林院長は男性ホルモン、テストステロンの存在を挙げ、「テストステロンがジヒドロテストステロン(DHT)という物質に変わって、毛乳頭細胞にある受容体に結合することで発毛が抑制されることがわかってきた」と指摘。
患者さんには「髪の治療で一番大切なことは、できるだけ手間をかけない、金をかけない、だけど毛は戻す、この3つが大切」と声をかけているという。また、薄毛への対策としては「植毛という治療もある、薬の治療もある。現実化はしていないけど、これからは再生医療を使ったやり方も出てくるでしょう。でも、現状でいろんな可能性と現実とを見た上で一番コストパフォーマンスがいいのは何かというと、薬物療法だと思います」と薬物治療を推奨している。
日本ではAGA治療は保険適用外。治療に伴う診察費や治療薬代は全て自己負担となる。診察料や血液検査費、処方料などもかかる。
「人によっては他の薬剤や治療法を併用することもあり、1カ月1~3万円が相場でしょう。治療期間としては平均的に6カ月程度とされていますから、治療効果が出るまで大体6~18万円は予算をみておく必要があります」
だが、「植毛の場合は毎月植毛するわけじゃない。お薬は毎月飲まないといけない。初期費用は植毛のほうが高くても何年かすれば薬物の費用が追い抜いてしまう可能性だってある」ともコメント。
薬物療法としては、AGA治療薬として国内でも認可され、効果と実績のあるプロペシア錠と外用薬のミノキシジルのほかに、新たに認可されたフィナステリド錠やサガーロカプセルなどが処方される。
もちろんAGAに効果が認められた治療薬の処方だけを目的とした診察ではなく、多くの診療科(皮膚科・形成外科・精神神経科・基礎医学)の専門医たちによる総合的なAGA治療を行っているのも特徴だ。
検査でも通常の血圧や血液検査だけではなく、オプションとして「AGAリスク遺伝子検査(AGA関連遺伝子発現量の測定)」や「アンドロゲンレセプター遺伝子検査」「ミネラル検査」なども受けられる。「アンドロゲンレセプター遺伝子検査」では、AGAになりやすい体質かどうかがわかり、一人ひとりの治療方法を決定する上で、より的確な治療が可能となるという。
患者さんとクリニックの共同作業
薄毛治療で難しいのは治療のゴールだ。
「発毛治療に関する医学的判断は非常に難しく、『この治療はいつやめるんですか』と言われても、髪が生えたから終わりというわけじゃない。やめたらまた悪くなる。薬をやめるタイミングは医者だけで決めるわけではない。患者さんの満足度を探しながらの、当院との共同作業となります」
適切な治療さえ行えば、薄毛は必ず治るのだろうか。「ただ全員に100点満点は出ないんです。ここの予備校に行ったら全員が第一志望に合格するとか、そういうことは薄毛の世界では絶対ない」と厳しい現実も指摘。
救いやすい薄毛の人のタイプについては、「AGAの代表的なものとして、前頭部から後ろに広がるタイプ(M型)と頭頂部から広がるタイプ(O型)があり、一概にすべての薄毛がM型とO型に別れるわけではないですが、私たちの経験からすれば頭頂部から広がるO型は、今の医薬品ではよくなる可能性が高いという認識があります」と説明する。
遺伝型の薄毛でもあきらめてはいけない
薄毛の要因としては遺伝の影響は大きいのだろうか。
「若くして薄くなっているケースは、その人の親族を調べると、やはり遺伝というケースが多い。しかし、若くして重症化して、薬が効かないかというとそうでもない。効く人は効くし、効かない人は効きにくい。個人差があります。この薬を飲んだら必ず生えますよとは、私たちも言えない。どうなるかは現在の医学ではまだわからないところがあるんです」と現状を説明する。
だが、遺伝型だからといって諦める必要もない。「遺伝の影響は確かに大きいです。しかし、私たちが一卵性双生児に着眼して研究してみたところ、ある時から別の場所で生活をしていたケースでは、薄毛の進行は同じではなかったんです。普段の生活の他の要因が影響して薄毛になっているという証拠ではないでしょうか」と説明する。
クリニックでは、こういったさまざまな研究を基に薄毛の原因を分析、テストステロンの数値を調べるだけでなく、その患者の生活習慣やストレス、食事などにも薄毛の原因の元を探り、一人ひとりの症状に合わせたAGA治療を行う方法をとっているという。
(取材・文=名鹿祥史)
小林一広(こばたし・かずひろ) メンズヘルスクリニック東京院長
北里大学医学部卒業。同大学病院にてメンタルヘルスを中心とする医療に従事する。その後、医療社団法人ウェルエイジングを設立。頭髪治療専門の城西クリニックを東京及び福岡に開院すると共に国内初の総合アンチエイジングセンター『AACクリニック銀座』を2006年3月に開院。2014年6月にメンズヘルスクリニック東京開設、現在に至る。精神科医としての経験を生かし、積極的に心身両面からの治療に取組んでいる。
精神保健指定医、医療法人社団ウェルエイジング 理事長
聖マリアンナ医科大学幹細胞再生医学寄附講座講師