個人間取引の将来性
情報システムをつくるだけではなく、中古としての価値が高く評価される実績を出していく必要がある。履歴情報を残し、中古としての価値を高める仕組みとしては、不動産総合データベースのほか、ハウスメーカーによる取り組みである「スムストック」もある。スムストックでは、各メーカーが履歴情報システムを備え、築後50年以上にわたり点検、補修を行う。中古住宅としての評価は、土地と建物を分けて表示し、建物は状態に応じて評価する。この仕組みで建物価値も相応に評価される例が出ているが、まだ実績は少ない。
履歴情報の普及と活用に関して将来性が感じられるのは、個人間取引支援の仕組みである。たとえば、ソニー不動産とヤフーが開始した「おうちダイレクト」では、自分で値付けしたマンション情報をサイトに掲載し、買主は売主とサイトを通じてやり取りできる。価格付けの参考になるのが、取引データなどから推定成約価格が算出される不動産価格推定エンジンである。
こうした個人間取引支援の仕組みにおいて、履歴情報も加味することで、高い成約価格が出るようになれば、所有者は将来、中古市場で高く評価されるよう、履歴情報を積極的に残すようになる可能性がある。また、そもそも住宅を取得する際も、将来的にこうした仕組みの下で、資産価値が残りやすい物件を取得するようになる可能性がある。
ハウスメーカーが履歴蓄積の仕組みをつくっているのは、自社施工物件の中古としての流通可能性や、リフォーム需要の取り込みにメリットを見出していることが大きい。しかし、これによってカバーされる住宅はごく一部である。結局のところ、住宅は所有者のものであり、個人が履歴蓄積によりメリットを感じられる仕組みをつくるのが、より近道かもしれない。アメリカのMLSでは、物件の状態に応じた価値を知ることができ、個人がきちんと手入れするインセンティブを与えている。
具体的な仕組みとしては、個人間取引を支援する仕組みに、不動産総合データベースを組み合わせ、高価格の成約実現を目指していくのが一案である。将来的に、こうしたビジネスモデルが登場することを期待したい。REINSでは今年に入り、性能や履歴などの情報項目を追加し、不動産ポータルサイトでも確認できるようになった。ただ、このままでは履歴情報を備えた物件を増やすことは難しい。所有者にとって、履歴蓄積がメリットになる仕組みづくりが望まれる。
(文=米山秀隆/富士通総研上席主任研究員)