使い捨て型から循環型へ
2013年の空き家数は820万戸、空き家率は13.5%と過去最高となった。空き家問題がここまで深刻化した一因には、戦後から高度成長期にかけて住宅が慢性的に不足し、供給を急ぐあまり住宅の質が劣化してしまったことがある。戦前の住宅は、棟梁が腕の立つ職人と良質な資材を集め、責任を持って施工することが普通で、そうした住宅が今でも古民家として残っている。しかも、高度成長期には住宅不足を解消するため、市街地を外縁部に拡大し、農地も宅地に転用することで、居住地域を広げていった。
ところが一転して人口減少時代に入ると、条件の悪い地域から引継ぎ手がなくなり、空き家として放置されるようになってくる。また、建てられた時点の質が低い上、いずれ中古として売ったり貸したりすることを前提に手入れを行ってきたわけでもなく、たとえ手入れしてきたとしてもその価値が市場で評価されるわけでもなかった。
こうした使い捨て型の住宅市場を、循環型の市場に変えていくためには、今後とも居住地として残すエリアを選別し、そのなかで良質な住宅ストックを残し、それを何世代かにわたって使い続けていくようにする必要がある。これが根本的な空き家対策となる。
そのための基礎となるのが、住宅が建てられた時点からその後の改修、メンテナンスの記録(履歴情報)を残しておくことである。履歴情報が残っていれば、中古住宅としての価値が高まり、物件の状態に応じた価格付けも可能になる。
アメリカではこうした情報システムが確立されており(MLS:Multiple Listing Service)、不動産エージェントを通せば、日本のREINS(不動産流通標準情報システム)で得られるような基礎情報のほか、履歴情報、課税情報、登記情報、地域情報などを参照できる。物件の価格付けもこうした情報を基に行われ、所有者は自分の物件が、市場でどのような評価を受けるかも知ることができる。アメリカでは現在、地域ごとに900ほどのMLSがあり、民間で運営されている。
日本でもこれをモデルに国土交通省が昨年6月から、横浜市で不動産総合データベースを試行運用している。REINSの情報のほか、履歴情報、地域情報を参照できる。しかしながら、履歴情報を残している住宅は、最近でこそ少しずつ増えているが、古い住宅ではほとんどない。MLSのように機能させるためにはまだ道は遠い。今後は、履歴情報を残している住宅は所有者に対する税を優遇したり、また、そうした住宅を取得する際の税を優遇したりするなどのインセンティブを講じることが必要と考えられる。