しかしA氏は、その都度、「(自らが契約している顧問弁護士が)金融商品取引法違反ではないと言っているので、自らの業は金融商品取引法でいう投資助言業ではない」と反論、その姿勢から、ますます疑惑の目が深まるに至る。
●破産により、騒動はあっけない幕切れへ
A氏への疑惑は、無届けの投資助言業だけではない。A氏が自身の経営する会社で私募を募り、ファンドを運営していたという声もある。
「A氏が経営していた会社では、投資コーチ業のほか、私募ファンドへの参加を募っていたこともあった。しかし、きちんとしたものなのかどうかがわからなかったので、自分は参加しなかった」(当時、A氏と投資コーチ契約を結んだ契約者)
もし無届けファンドが事実なら、これも当然、金融商品取引法違反である。
無届けによる投資助言業、ファンド運営と、A氏への疑惑の目は大きくなり、一頃、インターネット上の掲示板でも話題となった。
当時、本件を取材していた筆者も、金融庁や警察など関係各省庁への取材を行っていた。それぞれ「個別の案件には答えられない」としながらも、「問い合わせについては重く受け止める」との回答を得たことから、事態は大きく進展するかにみえた。だが、結果はそうはならなかった。A氏の経営する会社が破産、契約者や債権者に迷惑をかけ、騒動は大きくなったものの事件化されるには至らなかったからだ。
●今なお聞こえるA氏への疑惑の声
このA氏の経営する会社が破産後、A氏は契約者に対し、さらに新しい形でのサービスの契約を促す行為を行った。そして、そのために、破産によりすでに破産財団の手に渡っていた契約者(顧客)個人名簿情報を、勝手に持ち出していたのだ。
こうした行為は、A氏の破産管財人弁護士を激怒させた。そして、この弁護士から、A氏と投資コーチ契約を結んでいた契約者に送付した電子メールに、「インターネット上で投資顧問(助言)業を営んでいたA氏」と記載し、A氏が頑なに否定していた金融商品取引法でいう投資助言業を営んでいたことを、世間に知らしめることとなった。
A氏の疑惑は、これら無届けによる投資助言業、ファンド運営に限らない。自身で著した著作、ウェブサイトなどに記載していた経歴についても、今なおさまざまな疑問の声が投げかけられ、インターネット上には、これら疑問の声と疑惑の詳細が詳しく記されたサイトも存在する。
●投資は他人に相談するものではない
破産後、しばらく表舞台に出ていなかったA氏だが、最近、再びインターネットを主戦場とし、金融界を舞台にした活動を行っている。あくまでも個人的意見と前置きしたうえで金融庁の職員はいう。
「金融を騙り、金融に無知な市井の市民を惑わす輩に対しては、社会公器である金融を守るためにも、適切な対応を取らねばならない」
投資熱が高まった今、投資とは何か。誰の判断で売買を行うのか。自己責任とは何か。金融商品取引の際には、そういったことを今一度考えた上で行う必要があるだろう。
(文=秋山謙一郎/経済ジャーナリスト)