社員の親介護問題が企業を滅ぼす?ついに企業倒産や業績急低下などの事例続出
さらに、こう結論づけている。
<介護事由での制度の利用状況をみると、最も割合の高い「失効年次有給休暇の積立制度の介護事由利用」でも24.0%に留まっており、介護事由での制度利用は進んでいない>
私見ながら、この調査結果には驚かない。というのは、これまで介護従事者や企業経営者より多くの相談を受けた内容と一致するからだ。職場に独自の制度があったり、理解があったとしても、「決算期や繁忙期などに、なかなか介護を理由に残業を言い出しにくかった」「介護残業を免除してもらったものの、結局仕事が溜まっているため、休日出勤をした」「ほかの親族に代わってもらえないのか? と言われた」などと、経験者は現実の難しさを明かした。
こうした様子を見るにつけ、義務化されるからといって、手放しで喜んでばかりはいられないように思えてならない。
企業と従業員の信頼関係が壊れる例も
たとえば、製造業で従業員の大半が親の介護に携わっているとする。繁忙期に全員が介護残業の免除を申し出たらどうなるだろう。生産ラインがストップしかねない大問題に発展する。技術を要する場合は、なおさらだ。
非正規従業員の採用や業務の効率化を図ったとしても、解決できない問題が残る。それはクレームやトラブルだ。朝9時から夕方5時までの間に発生、解決するとは限らない。こうした場合、「義務ですから、残業は免除なので、帰らせていただきます」というわけにはいかない。しかし、この心配は杞憂に終わるかもしれない。新制度では、「事業の正常な運営を妨げる場合を除く」との但し書きが盛り込まれる見通しだからだ。
適用期間や介護度合いも設けられることになるに違いない。介護度合いに関して、こんな残念な実例がある。
親族の介護をしている従業員に、時短やフレックス勤務の制度を独自に導入している企業がある。従業員のひとりがこの制度を導入することになり、同僚も協力を惜しまなかった。
だが、企業や同僚は、この従業員の親族が介護認定を受ける状態になかったことを後になって知る。同僚たちの失望とショックは言葉にならないほどだった。結果的に職場が振り回されたことになり、生産性が著しく低下した。
極めてレアなケースではあるが、こうした制度を“逆手に取った”実例が発覚した以上、企業側の防衛対策として、行政から発行される介護認定関連資料のコピーを求めてもいいのではないかと思う。
企業と従業員の信頼関係が崩れてしまっては、質の高い仕事や新たなチャレンジにトライすることなど、到底望めないだろう。