確定申告、所得から65万円控除の優遇措置!副業は「事業所得」のほうが税金安くできる
今回は前回に引き続き、確定申告における副業の取り扱いについて、女性公認会計士コンビ、先輩の亮子と税務に強い後輩の啓子が解説していきます。
亮子「副業も、規模が大きくなってくれば、立派な本業だよね」
啓子「もう、『本業』とか『副業』とか、そういった区別をする時代ではないのかもしれません」
亮子「副業が雑所得となるか事業所得となるかの境目はどこにあるのかなあ」
啓子「一番は本人の意識の問題だと思いますが、それぞれの違いを知ることは大切だと思います」
事業所得と雑所得の境目はどこ?
事業所得か、雑所得となるかは判断が難しいところです。税法では、事業所得は次のように決められています。
「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得をいいます」
つまり、「副業を事業として行っているのかどうか?」というのがポイントとなりますが、「この事業かどうか?」という判断が実務上、とても難しいところです。実際に事業所得か判断するときの目安としては、営利性や継続性、その取引に費やしている精神的・肉体的労力の程度、人的、物的設備の有無やその社会的地位や生活状況など、さまざまな点を総合的にみて事業所得に該当するか判断します。事業所得に該当するかどうか判断が難しい場合には専門家に相談しましょう。
副業を事業として開始したら、開始1カ月以内に「開業届」を所轄の税務署へ提出します。開業届を出しているからといって、必ずしも事業所得と認められるわけではありませんが、事業として仕事を開始したとする主張材料の1つになりますので提出しておきましょう。
また、事業所得の申告種類には「青色申告」と「白色申告」があります。それぞれメリット・デメリットがありますので、内容を確認した上で青色申告をしたい場合には、「青色申告承認申請書」も開業届と併せて提出しましょう。これらの届出は特に費用がかかりません。申請用紙もインターネットで入手することができますので、簡単に手続きできます。
青色と白色のメリットとデメリット
白色申告(青色申告をしない)と青色申告、どちらを選択するのが良いか判断するためには、その違いを知ることが重要です。
税金面だけで考えれば、青色申告に大きなメリットがあります。主なメリットは4つです。
1つ目は、10万円または65万円を所得から差し引くことができる青色申告特別控除という優遇措置がある点です(2020年からは55万円。電子申告すれば65万円控除となります)。所得が減るので、税金が減るというメリットがあります。
2つ目は赤字が出た場合に3年繰り越すことができる点です。青色申告をしない場合には赤字を繰り越すことはできません。翌年に所得が出た場合に、過去の赤字と相殺して、所得を減らすことができます。
3つ目は親族などへ支払う給与に上限がなく、自由に金額を決めることができるという点です。白色申告の場合には上限が決められていますが、青色申告の場合には上限が決められていませんので、その点で自由度があり、必要な給与を経費として支払うことができます。
4つ目は30万円未満の固定資産を取得した際に、年間300万円を上限に1年で全額経費処理できるという点です。通常、固定資産は税金のルールで決められた耐用年数によって、複数年に分けて経費処理されるのですが、青色申告の場合、条件を満たせば1年で経費処理することができます。
税金面でいくつもメリットのある青色申告ですが、事務手続きの手間がかかります。まず、事前に青色申告承認申請書を提出しておく必要があります。また、帳簿の記帳と決算書の作成(65万円控除の場合には貸借対照表の作成)が必要ですし、領収書の保管期間なども白色よりも長く設定されています。
一方、白色申告であれば税務署へ事前の届け出が不要です。また、収支内訳書といって家計簿の知識があれば作成できるような簡単な決算書作成で済みます。事務手続きは青色申告よりも簡単という点がメリットです。ただし、青色申告のような優遇措置がほとんどありません。
なお、青色、白色にかかわらず、事業所得は損益通算(他の所得と赤字と黒字を相殺すること)が可能です。雑所得ではこれができません。事業として副業をしているのなら、事業所得として申告するほうが税金面でメリットがあります。
「帳簿のつけかたがわからない」という声もよくききますが、最近は使い勝手の良い会計ソフトも増えています。質問に答えて適切な科目を決めてくれたり、領収書の写真をとって記帳してくれたり、ネットバンキングから預金データやクレジットカードの取引を取り込んで記帳したり。さまざまな便利機能がありますので、会計ソフトをうまく使えば、自分で記帳することも十分可能です。帳簿記帳をあきらめて白色申告しているという方は、青色申告にすることを検討してみる余地があると思います。
帳簿や領収書などの保管義務
帳簿や領収書などの書類は保管期間が決められていますので、一定期間は書類を保管する必要があります。青色申告か白色申告かで保管期間が変わります。それぞれの保管期間は次の表を参考にしてください。
書類の保存は義務付けられていますが、整理整頓までは義務付けられていません。きれいにファイリングしたり整えたりしておくほうがベターですが必須ではありません。1カ月分の経費をジップロックのような袋でまとめて保管してもいいですし、段ボール箱に1年分の書類をまとめて入れていても問題ありません。
そうはいっても仕事をしながら領収書を整理したり、入出金を管理するのはなかなか大変です。そこで少しでも手間を省くため、通帳とカードだけはプライベート用と事業用(副業用)に分けることをおすすめします。事業用の銀行口座をつくって事業用をその口座に入金してもらうようにしましょう。また、事業に関する支出も特定のカードに集約して、事業用の口座から引き落としにしておけば管理が楽になります。集計の手間を少しでも減らせるよう、工夫していきましょう。
もしも人を雇う時には
人を雇うときは、あとあとトラブルにならないよう就業場所や期間、残業の有無や賃金に関することなどしっかり決めておく必要があります。そのため、雇用に関する書類(雇用契約書や出勤簿、賃金台帳など)を整えておかなければなりませんし、税務署や労働基準監督署などで各種手続きが必要です(社会保険や雇用保険の手続きなど)。手続が漏れるとトラブルのもとになりますので、不安な方は専門家に任せることをおすすめします。
また、雇用ではないかたちで仕事を人にお願いする方法として「業務委託」があります。一定の業種の個人事業主に報酬を支払う場合には、報酬から10.21%の源泉所得税を差し引いて支払う必要があります。そして、差し引いた源泉所得税は個人事業主の代わりに納税するという仕組みです。そのほかにも副業の際には気にしておくべきこと、知っておくべきこと考えておくべきことがたくさんあります。わからないことはそのままにせずに専門家にお願いするなどして解決していくようにしてください。副業であっても「事業」だということを忘れないようにしましょう。
亮子「申告するくらいの規模の副業になった場合、それなりの責任を負うべき事業と言えるから、『税金のことなんて知りません』ではすまないよね」
啓子「そもそも、所得税は、納税者自らが税法に基づいて所得や税額を計算して申告し、納税するという、申告納税制度を前提としています」
亮子「申告納税制度は、国税庁のウェブサイトにあるように『納税者自らが税法を正しく理解し、その税法に従って正しい申告と納税をするという極めて民主的な制度』ですからね」
啓子「自分の税金は自分で計算する。年末調整で完結することに慣れていると実感しにくいかもしれませんが、副業をきっかけに、税金としっかり向き合ってみるのも悪くないと思います」
(文=平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表、徳光啓子/公認会計士)