法制審議会(法務大臣の諮問機関)では、民法の相続法制見直しについて議論されてきた。6月に中間試案をとりまとめ、その柱の1つが、配偶者の法定相続分を現在の「2分の1」から「3分の2」に引き上げる案だった。しかし、パブリックコメント(意見公募手続き:政令・省令案等を事前に公表し、広く国民から意見、情報を募集する手続)ではこれに対して反対意見が相次ぎ、試案は方向転換を余儀なくされる。
法定相続分とは、遺言書がないまま亡くなった人の財産を遺族で分けるときの取り分のことだ。もっともオーソドックスな例でいえば、「父と母と子ども2人」という4人家族で父親が亡くなれば、母(配偶者)の相続分は2分の1で、子ども2人には4分の1ずつということになる。試案では、配偶者の「2分の1」を「3分の2」に引き上げようとしていたわけだ。
きっかけは自民党保守派の注文
今回の見直し議論は、2013年の最高裁判決がきっかけだった。法律上の婚姻関係にない男女から生まれた子(非嫡出子)の法定相続分を、法律上の婚姻関係にある男女から生まれた子(嫡出子)の半分と定めた民法の規定が憲法違反だとされた。つまり、日本では長らく、婚外子の取り分は半分とされて、差別されてきたのだ。
この最高裁判決に対して自民党内から反発が出たと、弁護士の丸山和也参議院議員は話す。
「家族や家族制度を守るべきという声の大きい保守派から、『あの判決はけしからん』『結婚した妻や子の権利を守れ』という意見が出てきた。しかし、最高裁判断を無視するわけにもいかず、民法改正に動くとともに、なんとかしようということで党内に特命委員会が立ち上がった」
自民党保守派は「婚外子の取り分が嫡出子と同じとした規定の削除が認められると、婚姻届を出している妻の取り分が減ってしまう」と考えた。そこで出てきたのが、妻の法定相続分を2分の1から3分の2に引き上げてしまおうという案だ。
なお当時、自民党保守派には「熟年離婚して再婚が増えている。再婚してすぐに夫が死んだら不公平ではないか」という意見もあったようだ。例えば、ある男性が25歳で結婚して55歳で離婚し、すぐに再婚したとする。しかし、65歳で亡くなれば、前妻との婚姻期間が30年なのに対し、後妻との婚姻期間は10年。後妻に遺産を持っていかれるのは不公平ということらしい。婚姻期間の長さによって法定相続分を変えようという案もあったが、さすがにそれは難しいので却下されたようだ。