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黒田尚子「『足るを知る』のマネー学」

突然に夫を襲う「熟年離婚」増加、資産も家も失い賃貸暮らし…超重要なお金の話

文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー

 夫はお酒が大好きで、タバコも止められない。その上、血圧も高いそうだ。A子さん曰く「定年間際の退職金が満額もらえそうな時点で、ぽっくり死んでくれたら最高なんですが……」とぽつり。まさに先般、話題になった書籍『夫に死んでほしい妻たち』(小林美希著、朝日新書)を地で行くような状況である。

 夫の突然死を望むくらいA子さんが思いつめているのなら、離婚して人生の再スタートを切ったほうがよい――、と誰しも思うだろう。A子さんがためらう最大の理由は、やはりお金の問題である。

 離婚後、経済的に不利になるのは妻のほうだ。ずっと専業主婦だったのであれば、年齢的にもフルタイムでの再就職等は難しいだろうし、将来受け取れる公的年金は、老後の生活のベースとなるが決して十分とはいえない。

年金分割制度」は離婚後の経済基盤安定の救世主?

 こんな状況に手を差し伸べるかのように平成19年4月に設けられたのが、「年金分割制度」(以下「本制度」)である。

 本制度は、離婚後に配偶者の一方の年金保険料の納付実績の一部を分割し、それをもう一方の配偶者が受け取れるという仕組みだ。勘違いしている人も少なくないが、これは年金自体を分け合うものではない。いわば「年金記録」を分割して、それぞれ自分の将来の年金額に反映させるというものである。

 本制度には、夫婦間の合意の手続きが必要なものと必要でないものの2種類がある。前者を「合意分割」、後者を「3号分割」という。3号分割は、平成20年4月に施行された。「専業主婦などの第3号被保険者が、平成20年5月以降に離婚した場合、自動的に1/2分割してあげよう」というものだ。分割される側にとって、請求すれば分割できるので、夫婦間で話し合う手間が省略できてありがたいと思うだろう。

 しかし、対象となるのは平成20年4月以降の婚姻期間であるため、それ以前の婚姻期間については、合意分割を使わざるを得ない。

「年金分割制度」の注意すべきポイントとは?

 また本制度について注意すべき点はほかにもある。分割できるのは「厚生年金保険および共済年金」に相当する部分に対する「婚姻期間中の保険料納付実績」である。

 したがって、「婚姻前の期間」は対象外。そして基礎年金となる「国民年金」に相当する部分や「厚生年金基金・国民年金基金」に相当する部分は分割の対象にはならない。そのため、夫が自営業者や自由業、農業従事者等の場合、そもそも本制度を利用できない。

 また、自分のほうが年金の受給額が多いのであれば、逆に年金分割を請求される立場になってしまう。

黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー

黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー

 1969年富山県富山市生まれ。立命館大学法学部卒業後、1992年、株式会社日本総合研究所に入社。在職中に、FP資格を取得し、1997年同社退社。翌年、独立系FPとして転身を図る。2009年末に乳がん告知を受け、自らの体験から、がんなど病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。聖路加国際病院のがん経験者向けプロジェクト「おさいふリング」のファシリテーター、NPO法人キャンサーネットジャパン・アドバイザリーボード(外部評価委員会)メンバー、NPO法人がんと暮らしを考える会理事なども務める。著書に「がんとお金の本」、「がんとわたしノート」(Bkc)、「がんとお金の真実(リアル)」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)、「入院・介護「はじめて」ガイド」(主婦の友社)(共同監修)など。近著は「親の介護とお金が心配です」(主婦の友社)(監修)(6月21日発売)
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