【下流老人を回避する最強の保障:トンチン年金保険】死ぬまで受取、長生きするほど得
四半期ごとに公表されるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用成績に世間は一喜一憂し、昨年末に成立した「年金制度改革関連法」は野党により「年金カット法案」と批判されるなど、私たちの老後を不安にさせる材料に事欠きません。ちなみに、同法案の正式名称は「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金等の一部を改正する法律」というものです。その内容は割愛させていただきますが、法律の謳い文句としては、年金制度を将来に向かって長続きさせるためのものです。
近年、「下流老人」という言葉が話題になり、なおさら人々は不安になっているようです。なぜなら、男性の4人に1人、女性の2人に1人が90歳まで生きる長寿時代となり、リタイア後は公的年金が生活の柱になるものの、それだけで暮らすのは難しく、自助努力で資産の山を築き、その不足分を補って生活していくことになるからです。つまり、「長生きすると、資産が底をついてしまうのではないか?」と不安になるわけです。
そんな「長生きの不安」を解消する手立てとして今後注目されそうなのが、「トンチン年金保険」です。
これは一生涯年金を受け取れる終身年金の一種で、その名称は仕組みを考えたイタリア人の名前に由来しています。通常の終身年金は、被保険者が存命である限り年金が支払われ、かつ低金利の長期化により運用益を稼ぐことが難しくなっていることから、取扱いを停止している保険会社が多くなっています。
トンチン年金保険では、年金受取開始前に死亡した人への死亡保険金などを抑え、その分を長生きした人への年金に回すことで保険料を抑えているのです。端的にいえば、早く亡くなった人は不利になり、長生きするほど有利となる仕組みなのです。払込保険料と受取年金額から、正確には何歳で元が取れるか計算することはできますが、いつ亡くなるのかは神のみぞ知る、言い換えれば亡くなる時期を私たちがコントロールすることは不可能。損得で加入を検討するのではなく、長生きした場合のリスクに備えるための年金保険なのです。
「長生きした場合の安心感」を買う
そもそも生命保険は「万一」や「もしも」といったリスクに備えるために加入するものです。トンチン年金保険も、本来の保障を得るための保険の延長商品と考えるべきものなのです。
現在、トンチン年金保険を扱っているのは日本生命保険のみ。他社が追随するかは定かではありませんが、4月より生命保険の標準利率(金融庁が定め、生命保険会社が予定利率を決める際の指標)が1.0%から0.25%に大幅に引き下げられることが決まっています。標準利率が引き下げられれば、予定利率も引き下げざるを得なくなり、結果として個人年金保険などの貯蓄性のある保険の収益率はさらに低下することになります。
いい換えれば、貯蓄性の個人年金保険などへの加入はさらに厳しくなることが予想され、トンチン年金保険のような仕組みを取り入れざるを得ないと思われてなりません。自助努力のひとつである個人年金保険も「長生きした場合の安心感(保障)」を買う時代に変化しつつあると理解すべきでしょう。
なお、女性のほうが男性よりも長生きであることから、同条件のトンチン年金保険に加入するならば、女性のほうが保険料が高くなっています。
(文=深野康彦/ファイナンシャルリサーチ代表、ファイナンシャルプランナー)