人気沸騰中の老後資金対策「iDeCo」、意外なデメリット…不意の生活費不足に陥る危険
iDeCo(個人型確定拠出年金)がこのところ、大きな注目を浴びている。制度自体は2001年からあるが、2017年から加入対象が拡大され、現役世代は制度上誰でも加入できるようになったことが大きな要因だ。さまざまな雑誌でiDeCoの特集が掲載され、書籍の出版も相次いでいる。私自身も以前からライフプランや保険を相談する人にiDeCoの利用を勧めていたが、昨年末からはiDeCoについて相談したいという顧客側からの依頼が爆発的に増えている。
iDeCoの最大のメリットは税金の軽減効果
iDeCoは毎月の掛金の額、運用する金融商品、受け取り方を自分自身で決めることができる公的年金の補完制度である。毎月の掛金を運用しながら積み立て、原則60歳以降に、掛金とその運用収益の合計額をもとに年金または一時金として受け取ることができるのだが、最大のメリットは税制上の優遇である。
iDeCoでは支払った掛金の全額が所得控除の対象となり、所得税・住民税が軽減される。言い換えれば、毎年の掛金分の所得をなかったことにしてくれるため、本来その分にかかる税金をなくしてくれる効果があるのだ。生命保険商品である「個人年金保険」と比べ、iDeCoの減税効果ははるかに高く、老後資金を準備する方法としてはもっとも有利といっても差し支えないだろう。
なお、iDeCoは、国民年金の保険料を免除されている人(障害基礎年金の受給者は除く)、国民年金の任意加入被保険者、農業者年金の被保険者は加入できない。また、企業型確定拠出年金のある企業に勤めている人は、勤務先の規約等により加入できない場合がある。
iDeCoの最大のデメリットとは?
iDeCoに大きなメリットがあるのは明白だが、デメリットはないのだろうか。最大のデメリットであり、リスクとなり得るのは、「原則60歳まで積み立てた掛金を引き出せない」ことである。
私は毎日のように顧客のキャッシュフロー表を作成している。キャッシュフロー表とは、未来のお金の出入りをシミュレーションするもので、大きな項目としては、「収入」「支出」「年間収支」「金融資産残高」が入る。標準的な収入と支出の子育て世帯のキャッシュフロー表を作成すると、夫婦が老後を迎える前、特に子どもの大学在学期間に金融資産残高、つまり手元のお金がなくなり大きくマイナスになってしまうことが多い。大学学部(昼間部)の学生の51.3%、大学院修士課程の学生の55.4%が奨学金を受給していることからも【註1】、それが普通に起こっている状況であることは推測できる。
【註1】独立行政法人日本学生支援機構「学生生活調査結果」(平成26年度)より。調査時点(同年11月)における最近1年間に「日本学生支援機構の奨学金」「日本学生支援機構以外の奨学金(給付・貸与等)」のいずれか、または両方を受給した学生の状況。
子育て世代は40~50代に住宅ローンに加えて子どもの学費がかさみ、蓄えを取り崩す期間が生じてしまうことが多い。その期間を見越して早めに手元のお金を増やしていく必要があるのだが、iDeCoのように老後まで受け取ることができない制度や商品に多くのお金を入れてしまうと、老後になる前に手元のお金が足りなくなるという問題が生じてしまう。
掛金額は将来のお金の増減も考えて決める
たとえば子どもが中学から私立中学にいくことになり、予定外に学費がかさむということは充分に考えられる。また、住宅ローンを変動金利で借りている人は、金利が上昇し月々の返済額が増えてしまうことも想定しておく必要がある。手元のお金を少なくすることは、さまざまな事態への対応が難しくなるリスクがある。
iDeCoのメリットを考えれば利用を検討するべきだが、60歳まで引き出せないことを肝に銘じ、掛金額は将来の手元のお金の増減を考慮して決めたい。キャッシュフロー表を作成してみる、あるいはファイナンシャルプランナーなどに相談することも有効だろう。掛金額は途中で変えることもでき、最低5,000円に減らすことも可能。収入や支出の変化に応じ、早めに掛金額を見直していくことも重要だ
(文=平野雅章/横浜FP事務所代表、CFP、1級ファイナンシャル・プランニング技能士)