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長谷川高「“ガラガラポン”の時代を生き抜くための経済・投資入門」

家賃が月10万円減…都心マンションから近郊の一戸建てに移住が加速、ワンルーム空室急増

文=長谷川高/長谷川不動産経済社代表

家賃が月10万円減…都心マンションから近郊の一戸建てに移住が加速、ワンルーム空室急増の画像1

「Getty Images」より

 今年も早いもので、いよいよ年末を迎えようとしています。思えば今年は長きにわたり教科書に記載されるような歴史的な1年となりました。50年後も100年後もこの2020年という年はいろいろな意味で歴史に残ることでしょう。

 年末が迫って参りますと「どうにか年が越せる」「今年は越せない」といった会話が本来ならば居酒屋で交わされるのでしょう。しかし、今年はその居酒屋の経営者から最もそういった声が出てきているのではないかと思います。経済全体の景気も徐々に悪くなっているように感じます。最近では若年層の方々の自殺が増加傾向にあるとの悲しいニュースも聞かれます。

四半世紀前の不況期と似てきた

家賃が月10万円減…都心マンションから近郊の一戸建てに移住が加速、ワンルーム空室急増の画像2
『不動産2.0』(長谷川高/イースト・プレス)

 今から四半世紀前の不動産バブル崩壊から始まった不況期には、よく電車が止まりました。人身事故が東京のあちらこちらで起こり、私自身が乗っていた通勤電車もあまりにも頻繁に止まり、困り果てた鉄道会社がホームの端に慰霊塔を建てたなどということもありました。

 その当時のことですが、当時デベロッパーの一担当者として、渋谷区にあった手形割引業者が保有していた土地を購入しました。それがまさに年末でした。その売主のところへ打合せに行くと、必ず先客が来ていました。建設業者の経営者の時もあれば、若い女性の時もありました。狭いオフィスでしたので、控え室で待っていると、パーティションの向こうの社長室の声は丸聞こえでした。

 その社長の商談(?)はほとんど毎回同じでした。持ち込まれた手形がいかに価値がないか、そしてこんな手形を到底割り引くことができないといったことを罵倒するように言い放つのです。つまり手形の割引をまずは強烈に断るのです。しかし、これは何かの儀式のように、それでも毎回お客は帰らないのです。結果「そこをなんとか」ということになって、初めて途方もない低い割引率を提示するのでした。

 私は、ただただ、その割引率のあまりの低さに驚き、のけぞったものでした。「そんな低い金額なら、あと数カ月どうにか、しのぐことはできないものなのか……」と。それができるならば、ここには来ていないわけなのですが。衝立の向こうに漫画『ナニワ金融道』で見た世界がありました。これがまさに年を越せるか越せないのかの瀬戸際の場面かと。

コロナ禍の不動産業界における異変

 さて、一方、今の株価だけは日本も米国も高値圏内にあります。これをどう判断したら良いのでしょうか?

 実体経済は新型コロナウイルス感染症の影響により、飲食、ホテル、旅館、旅客運輸業においては春先から甚大な損失が続いています。この業種の方々は名実ともに年を越せるかどうか思い悩んでいる方も少なくないと思います。

 不動産業界隈でもコロナ禍の影響を受けていくつか憂慮すべき現象が起きています。その一つが、単身者による東京離れです。直近において賃貸斡旋業者からお聞きして一番合点がいったことは、より都心寄りのワンルームマンションの空室が増えてきており、さらに募集をしても簡単には埋まらなくなってきたということです。春先から都内の飲食店の閉店や一時休業が続いています。そこで働く方々が東京を離れ始めているのだと思われます。

 また、もう一つ顕著な傾向が現れてきました。それは東京郊外または近県の一戸建てへ引っ越すファミリー層が増加してきたことです。先日も新聞に東京都内のマンション住まいのファミリー世帯が、群馬県の桐生市に移住したといった記事が掲載されていました。 東京におけるマンションの月額賃料13万円が、桐生市の平家の借家に移り、3万円となり、差額は月10万円になったというものでした。

 新型コロナ感染症の影響で在宅勤務やテレワークが増え、毎日会社に通勤する必要のなくなったことが根本にあるわけです。さらには、子供にとって自然環境の良さが考慮されての決断でもあったと記事にありました。それにしても毎月の家賃10万円の差額は実に大きいといえます。

郊外における空き家の活用が本格的に

 弊社でも東京郊外において築43年の空家を工夫に工夫を重ねて貸し出すことを、このコロナ禍で試みました。先日から実際に借りていただいた方も、引っ越し後には通勤時間が2時間となるそうですが、在宅勤務が増え、かつ子供にとっての自然環境の良さ、さらには家賃負担の軽減を実現できるということで契約していただきました。

 この戸建てを賃貸に出すといったことは、近年社会問題化している「空き家」問題の解決策として一部では注目はされていました。しかし、同じ大家業といっても都心のマンション経営とはまったく異なるもので、採算ベースを考慮に入れれば、それ相応の工夫が必要になってまいります。

 本質的に、いったいどんな方が借りてくれるのだろうか? どうすればお客様に選んでいただけるのだろうか? 受け取れる賃料に見合ったリフォーム代はどの程度投資すべきなのか? 等々の収支バランスを考えながら進めなければなりません。

 しかし、一方、今回のコロナ禍によって郊外における住宅への需要は確実に高まりました。今後、不動産賃貸業においても、または「空き家」の活用手段としてもこの「戸建て賃貸」といった分野は、ある程度の需要増が望めると思われます。

自らの生活や経済を一旦縮小すべし

 さて、今一度このコロナ禍をいかにしのぐのかということを考えていきたいと思います。今回、どうやら長期化が避けられない状況を鑑み、自らの経済を立て直すために(実家や故郷があろうがなかろうが)一旦都会を離れ、郊外や地方に移住するという行動は十分考慮に値すると思われます。

 端的に言えば一旦、自らの生活や経済を「縮小」するのです。将来的には、都会に戻ることを前提としても、コロナ禍が過ぎ去るまで一旦(移住して)経済を立て直し、将来における捲土重来をはかるのです。

 地方に移住する時、ファミリー世帯の方々にとっての最大の懸念材料が子供の教育の問題だそうです。私は、これまで不動産の調査や講演の仕事で全国47都道府県へ参りました。ある時は、酔狂で東海道線の各駅停車に乗って東京〜京都間を往復したこともあります。

 そんな私が全国の地方を回って驚いたことの一つは、駅のないような町にも必ず「塾」があるということです。それもしっかりと名門校を目指すための進学塾です。そして、どの町にも英会話スクールやピアノ教室にバレエスクールも存在しました。まして今は、私立の中高一貫教育を受け、さらに同質の者が通う有名大学を出たからといって、果たして人生が何かによって保証されているといえるでしょうか?

先手有利の思考をもて

 そして、実はこういったある意味で避難的な「移住」または一時的な「撤退」の決断は、遅いより、早いほうが良いように思います。

 株式市場は、開発途上のワクチンへの期待で崩れるどころか上昇基調にあります。しかし、実体の経済はどうでしょうか。今後ともさらに悪くなっていく可能性は否定できないと思います。それならば、まさに「先手有利」または「先手必勝」の思考が必要だと思います。少なくとも、この過去半年はそうだったように思います。

 囲碁の世界では、先手は後手に対して6目半の優位にあるとされます。競輪や麻雀でも先行するものが結果明らかに有利であるとプロのギャンブラーであった色川武大氏も言われています。現在のような情勢下における行動も、撤退するにしろ、何か手を打つにしろ、間違いなく「先手有利」だと私は考えます。

 不動産における大家業は、先ほど記した通り今まで埋まっていた単身者向けの部屋がなかなか埋まらない状況になってきました。この時にも状況が好転するのをただひたすら待つより、費用が掛かっても先手先手と改良、改善を重ねるべきだといえます。それは、家賃や諸条件を下げることも含め、費用の掛かるリフォームや設備の更新も先手先手で実施すべきなのです。なぜなら、不況期には、賃借人というお客様の取り合いとなるからです。これが一部ではすでに始まっているのです。

 3カ月後や6カ月後が、今よりは良くなっているかもしれません。が、悪くなっている可能性もあるのです。いや株価ではなく、実体経済においてはその確率のほうが高いのではないでしょうか? それゆえ、今から先手先手に手を打つべきなのです。

(文=長谷川高/長谷川不動産経済社代表)

長谷川高/長谷川不動産経済社代表

長谷川高/長谷川不動産経済社代表

東京生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。
大手デベロッパーにて、ビル・マンション企画開発事業、都市開発事業に携わり、バブルの絶頂期からその崩壊と処理までを現場の第一線で体験。 1996年に独立。
以来、創業から一貫して顧客(法人・個人)の立場で不動産と不動産投資に関するコンサルティング、投資顧問業務を行う。また、取引先企業と連携して大型の共同プロジェクトを数多く手掛ける。
自身も現役の不動産プレイヤーかつ投資家として、評論家ではなく現場と実践にこだわり続ける一方で、メディアへの出演や執筆、講演活動を通じて、難解な不動産の市況や不動産の購入・投資術をわかりやすく解説している。
長谷川不動産経済社

Twitter:@hasekei8888

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