新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、住まいのあり方が大きく変わってきました。新築の一戸建てやマンションでは、ワークスペースを取り入れたり、感染対策を施した住まいが増加していますが、それは何も分譲住宅に限ったことではありません。最近は、新築の賃貸マンションでもさまざまな対策が採用されるようになっています。その先端的な事例を紹介しましょう。
壁面を活用したワークスペースの確保
ライオンズマンションのブランドで分譲マンションを推進する大京は、実は「ライオンズフォーシア」のブランドで賃貸マンションも展開しています。
2021年1月には、JR総武線の浅草橋駅徒歩4分の『ライオンズフォーシア秋葉原イースト』(東京都千代田区)、東京メトロ日比谷線の築地駅徒歩2分の『ライオンズフォーシア築地ステーション』(東京都中央区)をオープンさせました。どちらも、駅近立地を活かして、比較的年収の高い会社員層の入居を想定していますが、テレワークが増加していることに対応して、居室内にテレワークスペースを確保できるように配慮しています。
たとえば、『ライオンズフォーシア秋葉原イースト』では、写真にあるように、壁面にレールを設置して、そこにカウンターデスク、棚板などを自由に組み合わせてワークスペースをつくることができるようになっています。ウィズコロナからアフターコロナになった場合には、ハンガー棚を用意して、ワークスペースとしてだけではなく、柔軟性の高い収納として活用できるようにしています。
入居者からワークスペースがほしいという声があがる
また、『ライオンズフォーシア築地ステーション』では、当初は棚収納を予定していたスペースに、幅86cm、奥行き58cm、高さ70cmのデスクを設置しました。もともと収納スペースの予定でしたから、居住スペースを損なうことなく、限られた空間で仕事に集中できるワークスペースを確保できました。上部の棚板は高さを変更できるので、プリンターや書類など、デスク周りのものを収納できるようになっています。
大京の賃貸マンションは1K、1DK、1LDKが中心になっていますが、コロナ禍で在宅勤務が増加しているため、入居者にアンケート調査を実施したところ、約8割が在宅勤務を行っており、頻度も週1回以上あることがわかりました。
そうした在宅勤務の経験者からは、「ワークスペースがほしい」「デスクが小さい」「モニターやプリンターを設置したい」といった声が多く、今回の賃貸マンションオープンに当たって、そうした声を取り入れることにしたそうです。
URとMUJIが提携したニューノーマルの住まい
郊外を中心に大型の賃貸住宅の団地を多数有するUR都市機構は、2012年度から無印良品グループのMUJI HOUSEと提携、毎年UR団地のリノベーションを展開してきました。2020年度は、コロナ禍を受けて、「ニューノーマルに対応した新プラン」として、3団地で13プランを用意して入居者を募集しました。
写真にあるのは、千葉県松戸市の小金原団地の例で、45.71平方メートルの1LDKが2戸準備されました。1960年代から70年代にかけて開発された古い団地ですが、MUJI HOUSEのセンスを活かしたお洒落な内装に変身しています。
45平方メートル台のコンパクトな空間のなかに、もともとは押入れだった空間を有効活用できるように、中棚をそのままワークデスクとして仕上げ、ハンガーパイプを設置して、ワードロープとしても利用できるようになっています。手元にコンセントが設置されているので、デスクライトや機器類の充電も中棚の上できるようになっていて便利です。
オン/オフの切替えが可能な建物内のコワーキングスペース
大手不動産の三菱地所レジデンスは、ザ・パークハウスの分譲マンションのほか、「ザ・パークハビオ ソーホー」ブランドの賃貸マンションの展開をスタートさせました。その第一弾が『ザ・パークハビオ ソーホー 大手町』(東京都千代田区)で、2020年9月に着工、2022年6月竣工の予定です。
JR山手線などの神田駅徒歩5分、東京メトロ丸の内線などの大手町駅徒歩7分という利便性の高いエリアにあり、丸の内や大手町に勤務する会社員を想定して、建物内にコワーキングスペースを設置しているのが最大の特徴です。
居室内にワークスペースを設けることもできなくはありませんが、自宅にこもりきりでは、オン/オフの切替えがうまくいかず、ストレスがたまる可能性があります。その点、建物内のコワーキングスペースであれば、切替えしやすいとともに、通勤電車の密も避けることができます。
また、このコワーキングスペースは居住者以外も利用できるスペースとしています。ウィズコロナで居住者が利用するだけではなく、ポストコロナになっても幅広く地域に開放して、エリアの賑わいに寄与したいといった狙いもあるようです。
顔認証で非接触のままマンションに入ることができる
分譲マンションではエントランス、エレベーターなどでの非接触キーを採用するケースが増え、最近では顔認証システムを取り入れるケースも増加しています。新型コロナウイルス感染症対策という点だけではなく、防災・防犯という点でも効果が大きいといわれています。
賃貸住宅は導入が遅れていましたが、入居者の入れ替わりが多く、さまざまな人が出入りする賃貸住宅こそ、こうした非接触システムが必要ではないかという見方もあります。
そこで、比較的家賃の高い賃貸マンションに限られるとはいえ、ジワジワと導入が進みつつあります。たとえば、クレイシアIDY(アイズ)シリーズの賃貸マンションを推進するプロパティエージェントでは、『クレイシアIDY(アイズ)学芸大学』(東京都目黒区)で顔認証システムを導入しました。東急東横線の学芸大学駅徒歩9分で、各部屋とも25平方メートル台の1Kタイプになっています。
顔認証システムが採用されているので、顔認証端末であるモニターに顔をかざすだけで、エントラスのドアを開け、メールボックスや宅配ボックスから荷物などを取り出し、エレベーターを呼び出して、各住戸への入室が可能になります。
安全・安心に郵便物や宅配便を受け取ることができる
同様の顔認証システムは、東急不動産の『東京ポートシティ竹芝レジデンスタワー』(東京都港区)でも採用されています。JR山手線などの浜松町駅徒歩7分の、大規模再開発プロジェクトの中核となるタワーで、一般の賃貸住宅138戸、シェアハウス44戸からなる大規模物件です。
顔認証システムでは、イラストにあるように、画像認識によってエントランスのドアを開錠し、エレベーターを呼び出すことができます。ハンズフリーなので、大きな荷物があったり、小さな子ども連れでも安心して入館できます。また、メールボックスと一体となった宅配ボックスにも顔認証システムが採用されており、非接触で安全・安心に郵便物や荷物を取り出せます。
さらに、住戸の鍵やエントランスのキーにスマートロックシステムを採用しており、スマホで鍵の開錠も可能で、安全・安心のライフスタイルを実現できます。比較的家賃の高い物件が中心とはいえ、賃貸マンションでもさまざまなレベルでコロナ対策が進んでいるようです。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)