一般にアベノミクス景気と呼ばれる今回の景気拡大局面も5年を超えて、7月時点で68カ月になった。過去の大型景気と呼ばれたいざなぎ景気(57カ月)、バブル景気(51カ月)を超えて、戦後最長の小泉構造改革景気(73カ月)に迫りつつある。景気の拡大は望ましいことであるが、循環するのもその定めであり、長期間の好況後には、相場の格言にあるように「山高ければ谷深し」となりがちなものだ。
実際、いざなぎ景気後の日本経済は列島改造インフレ、低成長の常態化と戦後初めての試練を受けた。バブル崩壊後の惨状は言わずもがなであろう。そして2000年代半ばの戦後最長の景気拡大後を襲ったのは、かのリーマンショックである。
もとより景気の先行きは不可視の領域だ。ただ安倍晋三首相の強運にも陰りが見られ始めた今、そろそろ次の局面を想定して準備をする必要はあるのではないか。いずれ、あるいは早晩、確実に訪れる景気の転換点で、どのように動くべきか。長く交友している(していた)練達の株式投資家たちの手法を、まとめてみた。
(1)基準を厳守して、戻り売りに徹する
「景気がピークアウトしたと感じたら、戻り売りに徹する。配当や優待狙いのコアな銘柄を除いて、戻ったところを売り抜く」(北関東のベテラン投資家)。すでに実行中とも言う。理由は「勢いのある相場ならば、これほど長くもたつくはずはない」(同)。なるほど日経平均株価は昨年9月に2万円台に定着したが、以降ほぼ同水準で膠着化している。戻り売りに際しては基準を決めて、迷わずに売るのが要諦だそうだ。ちなみにこの投資家は、リーマンショック前に平均株価が1万7000円台を乗せた時点から持ち株を売り上がり、楽隠居するには十分な資金を得ている。
(2)暴落直後の優良株買いで稼ぐ
株式投資で絶対に勝つと記せば、法律(金融商品取引法の断定的判断の提供)に触れてしまうが、ほぼ成功する方法はある。市場全体が暴落した際に、復元力の強い銘柄を買うことだ。大手証券の株式部長を務めた故人は、昔日このように説明していた。
「良い銘柄ならば、いったん底値をつけたと見て買いは入り、また信用取引の売り方からの買い戻しは入る。需給の面から早く値を戻す」
過去の経緯を基に具体的な銘柄をあげるのならば、旭化成(3407)、住友金属鉱山(5713)クボタ(6236)、ヤマトHD(9064)が投資対象として安心感があるのだろう。近年に起きた代表的な暴落である、リーマンショック、東日本大震災、ブレグジット(英国のEU離脱)、いずれの暴落でも早い段階で暴落前の水準を取り戻した反発力の高い銘柄であるからだ。
(3)買いではなく先物売りを試みる
株式投資で売りから入ると聞いて、嫌悪感や警戒感を示す個人投資家は案外多い。これも株は買うものという、証券会社や投信会社の刷り込みが効いているのであろうか。「買い一本で投資に臨むのは片翼飛行と一緒」と語ったのはデイトレードで鳴らした個人投資家(現在は様子見で休止中)だが、うなづけるところだ。一部には「株を売るのは日本経済を売るのと同様で売国奴」なる暴論はあるが、過度の楽観によって不相応に吊り上げられた株を、高く売って安く買い戻すのは経済、景気の異常な過熱を防ぐことにもつながり、責められることではない。
かつては売りといえば、空売りすなわち個別銘柄の信用取引を利用するほかはなかったが、現在は指標を用いた先物取引が整備されており、選択肢は広がっている。なかでも比較的手掛けやすいのはTOPIX(東証株価指数)を用いた先物取引だろう。過去10年の年間平均変動率で見ても、日経平均株価が41%であるのに対して38%と値動きは穏やかであり、証拠金も安い(7月中旬時点でミニ先物1枚4万5000円、日経平均は6万6000円)。
最後に強気筋からは、なお聞かれる「東京オリンピックまで株は大丈夫」との見方に、はるか昔、兜町の証券外務員から聞いた名フレーズを紹介しよう。
「平穏な相場など続くはずがない。なぜなら人間はそれほど賢くはないからだ」
(文=島野清志/経済評論家)