「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や「つみたてNISA」が登場し、積立投資が注目を集めています。まとまった資金がない人にとって、月々一定の金額を投資していく積立投資は、資産形成の有効な手段です。大きな資金ができてから投資をしようと思うと、なかなか貯まらずに、投資を始めるのが遅くなります。投資に限りませんが、毎月一定額が口座引き落としされるとその分節約しなければならず、それが貯蓄につながります。
積立投資による「リスク低減効果」
それだけでなく、積立投資による「リスク低減効果」も注目されています。一度にまとまった金額を投資するのではなく、毎月一定の金額を少しずつ投資することで、価格変動のリスクを抑え、損失を防ぐという考え方です。
「毎月買う」ということは、投資タイミングを分散させることになり、買ったとたんに下がってしまう“高値づかみ”を避けることができます。継続して買っていきますので、下がったら下がったで、次は安く買うことができるからです。
さらに、毎月の購入を一定の株数(口数)にするのではなく、一定の金額に設定しておく「ドルコスト平均法」は、購入の平均単価が低くなり、利益が出やすいといわれています。
実は私も、分散投資、長期投資とともに積立投資を、リスクを抑える方法として勧めてきました。しかし、改めて考えてみると、積立投資やドルコスト平均法にリスクを抑える効果はほとんどありません。
リスクが減る分、リターンも少なくなる
たとえば、100万円の資金を10年間運用する場合で、一度にまとめて株式を購入するのと、年10万円ずつ10年間に分けて投資する方法を比較してみます。その後の株価の下落の可能性を考えると、10回に分けて購入したほうがリスクは小さくなります。積立投資の場合はすぐに全額を投資しないからです。最初に投資するのは、全体の10分の1だけで、残りは預貯金にプールされています。10年目には全額が投資されますが、平均の運用期間は、5.5年です。運用している期間が短いわけですから、当然のことながらリスクは小さくなります。
運用期間の半分近くを、運用しないわけですから、リスクが小さくなるのは当然です。リスクだけでなく、リターン(運用の成果)も小さくなります。100万円のうち、55万円だけを最初の時点で投資して、残りを預貯金でプールしておいたのと同じことになります。
これは、分散投資によるリスクの低減とはまったく意味合いが違います。分散投資では、投資先のそれぞれが異なる動きをすることで、リターンを保ちながらリスクが低減する効果があります。それに対して、積立投資の投資先は同じ銘柄ですので、このような効果はありません。リターンを減らすことでリスクを下げているだけで、早い話「投資する金額を減らしている」ということです。
ドルコスト平均法の「購入の平均単価が低くなる」効果も、実は微妙です。相場が上がったり下がったりを繰り返している場合は、毎月一定の金額で買い付けるドルコスト平均法が有利です。しかし、一貫して上昇や下落が続く相場では、毎月一定の株数(口数)を購入したほうが有利になる場合もあり、必ずしもドルコスト平均法が有利とは言えません。
それでも積立投資のメリットは
こうして見てくると、積立投資によるリスク低減効果はありません。今後の株価の動きを見通すことができるのでなければ、投資するベストのタイミングは“今”となるわけです。株式が上昇している場合には、毎月少しずつ買っていくよりは、できるだけ早く買ったほうが利益は大きくなります。積立投資では利益を逃してしまいます。
しかし、それでも私は積立投資を勧めたいと思います。株価が上昇したときに利益を逃してしまう後悔と、株価が下落した際の損失による後悔では、後者のほうが大きいのが常だからです。
さらに、平均投資期間が短くなることによるリスクの低下もメリットと考えたいです。投資金額を少なくすれば、同じ効果が得られますが、受け取り方は違います。100万円のうち半分だけを投資して、それが半値になった場合、資金全体での下落率は25%です。しかし、ほとんどの人は「50万円が半分になってしまった」と思うものです。投資家にとっては、投資する金額こそがすべてですので、その金額でのリスクを減らすことが大切です。
(文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー)