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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

大量放映のシニア向け「定期保険」CMが危険…死亡時には保障切れ、保険料値上げ

鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
大量放映のシニア向け「定期保険」CMが危険…死亡時には保障切れ、保険料値上げの画像1
「gettyimages」より

 シニアに向けて「保険料はこれだけ」といった安さを強調するテレビCMが盛んに放送されている。一昔前と比較すると保険料が安くなったことは歓迎すべきことだが、重要なことが伝えられていない。かつて起こったトラブルが再び起こるのではないかと危惧している。ひいては働き世代にも影響を及ぼしかねないからだ。

 人生100年時代になって死亡保障(=生命保険)の考え方も変わってきた。従来の保険提案では葬儀費用を想定して終身保険(一生涯の保障)に加入し、保険金額を300万円に設定することが多かった。しかし、コロナ禍になって、近親者のみで行う家族葬が主流になった。鎌倉新書が2022年に行った「【葬儀】第5回お葬式に関する全国調査(2022年)」によると、「家族葬」が55.7%で最多、次いで「一般葬」25.9%、「直葬・火葬式」11.4%となっている。

 コロナ禍による行動制限が緩和されても、一般葬が急増するとは考えにくい。一つは参列者の体調の問題であり、もう一つは意識の変化だ。高齢化が進むと足腰をはじめ、どこかしら体の不調が出てくる。認知症にもなる可能性だってある。葬儀に参列したくても、体調や親族のフォローを考えると辞退する人も少なくないはずだ。遠方の子どもの近くに引っ越した場合、元の近所の方の葬儀には参列しにくい。

 ここまで家族葬が増えると、従来のように風習や体面を取り繕うために一般葬を執り行わなくてもいいと考える人も出てくる。葬儀の際は町内会の人が参列していた地域でも、今では葬儀後に町内会に死亡の連絡をしてくるケースもあるという。

 今、葬儀費用の平均はどれぐらいだろう。前出の鎌倉新書が公表した「第5回お葬式に関する全国調査(2022年)」によれば、基本料金は67.8万円、飲食費は20.1万円、返礼品は22.8万円、総額は110.7万円となっている。従来に多い終身保障300万円の保険に加入しているなら、なんら問題はなさそうだ。ただ、保障が切れていたり、見直しで保険料を安く抑えるため死亡保障が50万円になってしまっていることに気が付かないケースも少なからずある。今盛んに流れているテレビCMも、保障が切れている人や保障の上乗せをしたい人に向けたものだ。

更新時に保険料は値上げ、一生涯の保障でもない

 では、これらのCMの何が問題なのか。シニア向けのCMで紹介しているのが「定期保険」だからだ。「定期保険」とは一定期期間の保障で、更新していくタイプの保険だ。保険料は更新時に見直され、更新ごとに値上がりする。基本的に解約返戻金もない。つまり、更新時に保険料は上がるし、一生涯の保障でもないし、解約返戻金も期待できない。

 定期保険は現役世代が大型保障を手に入れるために活用したり、「年金を夫婦両方が受給できるまで」「貯金などが満期を迎えるまで」と期間を限定して活用することには意義があると思う。しかし、安さだけを強調するCMが目立つ。画面上に小さく「保障期間は10年間」と書いてあるものもあるが、見過ごしたり聞き逃したりする人がほとんどではないか。

 シニアは若い世代のようにネット検索をして情報を集めて決断することに慣れていない。「保障のチョイ足しができたり、保険料も安いなら、自分にぴったり」と思って飛びつく人もいるだろう。

 もう一つ懸念されるのが、保険料が値上がりしていくリスクを十分に認識しないまま加入する人が出てくるのではないかという点だ。シニアが加入する定期保険料は加入時には2000円程度であっても、更新を繰り返した場合、最終的に保険金額より累計保険料のほうが高いものもある。CMを見て「一生涯、保険料は値上がりしない」と勘違いする人もいるだろう。

「相続対策に」という謳い文句

 実は、かつて定期保険が問題になったことがある。更新時に保険料が値上がりしたり、保障が減ることもあるが、それを多くの契約者が認識しておらず大問題になり、所轄官庁の金融庁が事態を重く見て、説明義務や募集方法について法整備をする事態になった。

 危惧はそれだけではない。定期保険の保障期間は一定期間のみだが、その分、保険料が安価だという側面がある。私が知る限り、日本国内で発売されている個人向けの定期保険は90歳までのものが多く、最長でも99歳だ。100歳以上の保証期間が設定できる定期保険が望ましいが、終身保険との意味合いに違いが見いだせないことから発売は難しいと聞く。

 そんな定期保険なのに、驚くのは「相続対策に」というCMまであることだ。22年9月に厚生労働省が発表した100歳以上の高齢者の人口は9万526人(1 R4百歳プレスリリース)。100歳以上生きる可能性は“万に一つ”ではなくなってきた。親が100歳以上で亡くなったとしても、定期保険の保障が切れていることになる。「相続対策は終身保険で」というのが保険業界の常識ではなかったのか。

 今は70歳以上の人が保険に加入する場合は、子どもなどの若い世代が同席することになっている。しかし、さまざまな事情で同席できない場合は、保険会社の管理職が同席すればよしとする場合もある。つまり子どもの知らないうちに、親が保険に加入しているケースもあるのだ。

 ちなみに、シニアが保障の上乗せを希望する場合は、体況によっては加入できなかったり、保険料が高額になったりすることを考えて、一時払終身保険を提案する保険会社が多い。なかには、その保険料が100万円の商品もある。

 シニアが加入している保険の内容を確認することは、終活として非常に重要だが、勘違いしている人も多い。親の「保険にはちゃんと入っている」という言葉を信じた挙げ句、葬儀費用が捻出できず、子どもたちで負担することになり、親族不和になった例を筆者は数多く見てきた。誰か一人が介護や入院の世話をしていたならなおのことだ。

 子どもから「財産はいくら?」と聞かれても教えない親も多いが、保険を切り口にすると、意外とすんなり教えてくれるケースも珍しくない。一度、自身の親に「加入している定期保険の死亡保障はいつまででいくらか、どんな種類の保険で、保険金はいくらか」と切り出してみることはお勧めしたい。 

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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