NISAは英国の「個人貯蓄口座」(ISA)を参考につくられた制度だが、2つは似て非なるものだ。英国の場合、低所得層の貯蓄率を引き上げる目的で導入されたため、ISA口座開設者の過半数が年収2万ポンド(約340万円)未満といわれている。
一方、NISAは株価の下支えの色彩が強く、株式や投資信託への投資で得た利益にかかる税率が今年1月以降、従来の10%から20%に上がるため、個人マネーが株式市場から引き揚げられるのではないかとの懸念から導入された。
使い勝手の面では、NISAはISAに劣るとの指摘も多い。ISAは期間が区切られていないが、NISAは10年間の時限措置であり、かつ恩恵を受けられるのは5年間だけだ。英国では2011年に18歳未満の青少年の将来に備えるジュニアISAも始まり、大人用・子ども用とも株式型に加え、預金の利子を非課税にする預金型も用意されている。こうしたさまざまな工夫が実り、英国では全世帯の40%にISAが普及しているという。
●個別銘柄が人気、投資信託は敬遠
制度開始後の1週間は、武田薬品工業やソフトバンクなど時価総額が高く、配当も大きい銘柄が買われた。NISA口座の注文の70~80%は個別の銘柄で、不動産投資信託(REIT)など投資信託は2~3割だという。投資信託は割高な手数料から敬遠されている。
日本証券業協会によると1月1日時点の口座数は440万口座に達したという。昨年10月1日時点の358万口座から20%以上増えた。その後、国税庁は1月23日、口座開設数が13年末時点で475万件に達したと発表した。申し込み件数はおよそ550万件で国税庁では1月中に口座開設数が500万件を超えるとみていた。日証協によると、475万口座の内訳は証券会社が320万件、残り150万件強が大手銀行や地方銀行だという。口座を開いた人の7割が証券会社経由であり、証券会社は口座の開設者に2000円の現金還元キャンペーンを展開するなど多額の販促費を注ぎ込んだ。今後の課題は投資層の裾野を広げることだ。政府は2020年までにNISAによる総投資額25兆円を目指している。
1月第1週(6日~10日)の個人による買越額は3006億円と、昨年5月第4週以来の高水準となった。
何が買われているのかというと、前出の武田とソフトバンク以外ではキヤノン、日本マイクロニクス、みずほフィナンシャルグループ、NTTドコモ、住友商事、トヨタ自動車、三菱商事、三菱UFJフィナンシャル・グループなどだ。知名度の高い高利回り銘柄が多いが、4位の日本マイクロニクスはジャスダック上場銘柄。15位にユーグレナなどの新興市場の銘柄が顔を出してくる。
今年はNISA元年ということもあり、「配当利回り」に対する注目度が例年以上に高まっている。大手銀行の10年物定期預金の金利が0.1~0.2%にとどまるゼロ金利状況下にあって、配当利回りが2~3%に達する優良株が数多く存在する東京株式市場は魅力があると、証券会社は売り込みに躍起となっている。
特に三井住友フィナンシャルグループ(配当利回り2%)やNTT(3.0%)、JT(2.9%)、JXホールディングス(3.0%)などの有名企業は、投資対象の第1候補だ。予想配当利回りが3%強に及ぶ伊藤忠商事にも、NISAを利用した個人投資家の買いが活発に入り、同社株価は1月20日までに昨年比で5%上昇した。個人の買いが主体で、三菱商事、三井物産に比べて堅調ぶりが目立った。その後は日経平均につられて下落したが、下げ幅はそれほど大きくない。
富士重工業も最低投資額が30万円前後で、年間配当は40円。NISA経由の買いが入るだろうとみられている銘柄だ。
●株価一方通行の懸念も
NISA口座からの資金が新興市場の下支え要因になっている面は確かにあるが、新興市場の銘柄は、どうしても一方通行になりやすい。値上がりしている時はいいが、いったん人気が離散すると大きく値を下げることになる。1月後半、まさにその懸念が現実のものとなり、日経平均株価は大幅に下落した。
見逃せないのは株主優待制度のある銘柄を物色する動きだ。NISAの買いは3月末の買いの配当取りを含めて2~3兆円になるとの予測もあり、NISA狂騒曲が展開されそうだ。野村證券の永井浩二社長は新年早々、NISAに対する期待を「個人の金融資産が貯蓄から投資に向けて動く起爆剤になる」と述べた。
NISA口座開設数は順調な伸びを示している一方、複数の金融機関に申し込んだ個人投資家が10万人以上発生しており、税務当局が名寄せと呼ばれる名前のチェックに手間取っている。そのため、昨年12月上旬に口座開設を申し込んだ人が、1月末になってようやく取引を始められるようになったケースもあるという。12月中旬以降に申し込んだ人は取引開始まで最大2カ月かかることもある。1月下旬から2月初旬にかけて日経平均株価は連続安で1500円以上急落している。NISAをテコに個人投資家を株式市場に引き寄せようとした政府の作戦が、予定通りいかなくなるとの懸念も出始めた。
景気回復への期待を受け、活況を迎えつつある株式市場の勢いに乗り、「NISA元年」は華やかな幕開けを迎えることができるのか。個人投資家の株式市場への呼び込み拡大を占う上でも、今年は文字通り試金石となる。
(文=編集部)