【森友文書改ざん問題】で揺らぐ民主主義の根幹ーー政局話に矮小化せず、事実の解明を
森友問題が矮小化されてはいないか
一口に「森友問題」と言っても、その時期と性質で大きく二つに分けられる。
(1)財務省と森友学園の土地取引における特別待遇
8億円もの値引きだけではなく、土地売却を前提にした10年間の特約付き定期借地契約に始まり、売買価格を当初非公表としていたことに至るまで、同学園に対する対応は異例ずくめ。それが、どのような経緯で行われ、なぜこのような異例の対応になったのかという理由の解明が必要だ。
これは、首相や与党議員などの身内や近親者が特別扱いされるという縁故主義が行政の過程に入り込んでいないか、公務員が全体の奉仕者としての公僕ではなく、一部の権力者の“私僕”になっていやしないか、という問題でもある。加計学園の獣医学部新設を巡っても、同様の疑念が向けられた。昭恵氏の話を聞きたいのは、この問題についてだ。森友問題に限らず、彼女の活動によって、行政が動いたケースというのはほかにもあるかもしれない。
縁故主義や公務員の“私僕化”が生じていると、権力者を批判した者に対しては、敵対的な対応に出る事態も起きうる。前川喜平・文科省前次官が名古屋市内の中学校で講演したことについて、その後同省が名古屋市教委に2度にわたって詳細な報告を求め、録音の要求までしていた問題も、自民党の文教族議員が文科省に執拗な照会を行っていたらしい。これにも、上記のような背景がありはしないか。その原因や背景も調べなければならない。
(2)財務省による決裁文書の改ざんや国会での虚偽答弁疑惑
明らかになりつつある一連の行為は、いつ、誰が、どのように関与して行われたのか、その背景はどこにあるのかという事実とその原因の究明が求められる。
その際、同省だけでなく、防衛省のPKO日報問題や厚労省のデータ隠しなど、今の霞が関全体の公文書管理の関する倫理や制度の問題、会計検査院の能力や体制なども調べ、今の霞が関の問題をきっちり点検する必要があるのではないか。
(1)と(2)のどちらが優先事項かと言えば、民主主義の基本を揺るがした(2)である。
もちろん、この両者には関連はある。内閣人事局の設立によって、お役人の人事権が完全に官邸に握られ、政権が長期に及ぶことで、その力関係が固定化して、役所が官邸の意向を忖度している状況など、両者に共通する問題もあろう。
このような問題点について、ひとつひとつの事実を聞き取りによって確かめ、当時の資料の提出も求めなければならない。それを、すべて国会の場でやることは困難だし、時間もかかる。
東京電力福島第一原発の事故が起きた際には、内閣の事故調査委員会とは別に、国会において独自の、政治的に中立な事故調査委員会を設立。学者、法律家、ジャーナリスト、その他の識者によって調査が行われた。
今回も同じように法律家、学者、ジャーナリストなどによる事実調査委員会を作って、徹底的に事実を調べるのがよいと思う。
また、国会に特別委員会を作り、調査委の報告に基づいて、必要に応じて証人喚問を行い、公聴会を開くなどして、問題が起きた背景や再発防止策を話し合う。
今回は、国会に虚偽の報告がなされ、国民は虚偽をもとに政権選択選挙までやったのだ。麻生財務相の進退や安倍内閣が辞職するか否かという問題とは別に、党派を超えて取り組んでほしい。
そのような声が、国会でもマスメディアの中でも大きくならず、誰かのクビを取るか取らないか、という話に矮小化されているのが、なんとももどかしい。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)