【森友文書改ざん問題】で揺らぐ民主主義の根幹ーー政局話に矮小化せず、事実の解明を
さらに衆院財務金融委員会でも、本件を「佐川事件」と呼んだ。こちらも、もうストーリーは決まっているかのようである。
19日に行われた参議院予算委員会での集中審理では、財務省がすべての元凶であると強調しようとしてか、質問に立った自民党の和田政宗議員が「太田理財局長は民主党政権時代の野田総理の秘書官を務めていた。増税派だからアベノミクスをつぶすために、安倍政権を貶めるために、意図的に変な答弁をしてるのではないか」との陰謀論まで展開した。
その自民党は、本件についての真相究明を目的とするプロジェクトチームを立ち上げ、再発防止策も検討するという。
しかし、このように筋書きがあらかじめ提示されている中で、果たしてどの程度の「真相」が明らかになるのだろうか。
そして、野党である。野党は国会審議を拒否して、佐川氏や安倍首相夫人・昭恵氏らの喚問を求める一方、この問題は、麻生財相や安倍首相に責任が大きいとしてしている。野党が、政権の責任を追及するのは当然だろう。
ただ、このようなやり方で真相がわかるのだろうか。
佐川氏の証人喚問には与党も応じることになったようだが、問題に近い当事者ほど、検察の捜査の対象にもなっている。佐川氏を国会に証人喚問しても、「刑事訴追される可能性」を理由に、肝心の情報が出てこない可能性が大きいのではないか。また、もっと追及の材料がそろわないと、のらりくらりの答弁でごまかされるかもしれない。
その挙げ句、事実の解明は特捜検察にお任せ、ということになるのではないか。しかし、検察が捜査するのは立件が見込める事件と範囲ということになり、全体像の解明はその役割ではない。それに検察当局にも、政権の人事権は及ぶわけで、果たしてどこまで捜査が及ぶのかわからない。
一方、昭恵氏の場合、問題が発覚して以来、何も語らないことに対して国民の不満もあり、世論調査で「証人喚問すべき」という声が圧倒的になるのは当然だ。野党としては、主張のしがいがあるだろう。
しかし、国会は、お白洲とは違う。証人喚問に引っ張りだし、糾弾することで、社会的制裁を与えることが主目的になってはならない。森友学園の籠池泰典理事長(当時)の場合、その発言が「総理を侮辱している」として、自民党が証人喚問を決めたが、そのような報復的な動機で行ったのは間違いだ。証人喚問は、あくまで問題についての事実やその原因を究明することが目的でなければならない。
昭恵氏の天衣無縫な言動は、立場を弁えず、社会人としての常識に欠け、さまざまな問題を惹起した一因だろう。それを好き勝手にやらせ、おまけに国家公務員を複数秘書につけて、その害を拡大した安倍政権の責任は大きい。昭恵氏の言動は、調べるべき事柄のひとつではあろう。
ただし、彼女は文書の改ざんに関与しているわけではなく、最優先で事情聴取すべき相手というわけではないだろう。彼女の指示、もしくは依頼を受けて、直接官庁の担当者に問い合わせ、もしくは働き掛けを行った職員のほうが先ではないか。さらに、それよりも問い合わせ(もしくは働き掛け)を受けた側が、どのように受け止めたかというほうを、まずは聞くべきだ。そうして明らかにした事実を前提に、彼女に問い質すのがよいのではないか。