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共産党の公約で「非実在児童ポルノ」が衆院選の争点化…表現規制問題の論点整理

文・構成=編集部
共産党の公約で「非実在児童ポルノ」が衆院選の争点化…表現規制問題の論点整理の画像1
参議院議員山田太郎氏(撮影=編集部)

 31日の投開票が迫りつつある衆議院議員選挙。与野党がそれぞれに公約を掲げ、論戦を繰り広げる中、インターネット上を騒がす一つの論点が浮上した。日本共産党が公表した「2021総選挙政策」の中で、「非実在児童ポルノ」に対する取り組みに言及したのだ。ネット上では「アニメ、マンガなどの創作物の表現規制につながるのでは」と不安視する声が相次いだ。

 共産党はこれまで一貫して表現規制に反対する立場を取っていただけに、大きく注目を集めた。ネット上での騒動を受け、共産党は18日、公式サイトで以下のような公式見解を表明した。議論の重要な部分であるため、長文だが引用する。

「『7、女性とジェンダー』での記述にあるように、日本共産党は、児童ポルノは『性の商品化』の中でも最悪のものであり、児童に対する最悪の性虐待・性的搾取であって、社会からなくしていかなければならないと考えています。

 同時に、『60、文化』の項にあるように、『児童ポルノ規制』を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きには反対です。

 今回、『女性とジェンダー』の政策の中に、児童ポルノの定義を「児童性虐待・性的搾取描写物」と変えるとあることをもって、これまでの方針を転換し、マンガやアニメなどの表現物・創作物を法的規制の対象にしようとしているとの理解が広がっていますが、そうではありません。

『児童ポルノ』という言葉については、日本共産党は従来から、被害実態をより適切に表す『児童性虐待描写物』などに改めることを提起してきました(2014年6月17日、参院法務委員会議事録参照)。『児童ポルノ禁止法(1999年成立、2004年、2014年改正)』の保護法益は、実在する児童の自由と人格であり、その規定も、わいせつ性や主観的要素を構成要件とするのではなく、児童への被害の重大性を評価する必要がある、という観点からの提起です。

 今回の『女性とジェンダー』の政策は、一足飛びに表現物・創作物に対する法的規制を提起したものではありません。日本の現状への国際的な指摘があることを踏まえ、幅広い関係者で大いに議論し、子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さないための社会的な合意をつくっていくことを呼びかけたものです。

 そうした議論を起こしていくことは、マンガやアニメ、ゲーム等の創作者や愛好者の皆さんが、『児童ポルノ規制』を名目にした法的規制の動きに抗して『表現の自由』を守り抜くためにも、大切であると考えています」

 今回の選挙では共産党のみならず、立憲民主党も公約で「メディアにおける性・暴力表現」に言及。自民党の 「2021衆院選政策 BANK」では、かつて表現規制につながる部分が物議を呼んだ「青少年健全育成基本法」の名が再び現れた。

 SNS全盛の時代ではメディアのみならず、全ての国民が「表現の自由」の当事者になり得る。「表現規制」にまつわる政治の動きが大きくなりつつある今、有権者は何に着目すべきなのか。一連の歴史的経緯と、課題について、表現規制問題の第一人者として長らく国会で政治活動を続けてきた自由民主党参議院議員の山田太郎氏に話を聞いた。(以下、山田氏の解説と見解)

立法時に残された児童ポルノ禁止法の問題点

 今回、共産党さんが公表した「2021総選挙政策」で言及した“児童ポルノ”に関する政策の論点は、大きく3つあると思います。

 まず1つは「非実在児童ポルノ」という用語は何を表しているのかということ。

 2つ目は、一連の主張の論拠としている国連の2016年の特別報告者による勧告です。私は、勧告のもとになった国連人権理事会「児童の人身売買、児童売春、児童ポルノに関する特別報告者」のマオド・ド・ブーア=ブキッキオさん(元欧州評議会事務次長、オランダ)が2015年10月26日に日本で開いた記者会見時の事実誤認発言を問題視し、訂正をさせるように外務省に働きかけを行いました。そうした経緯を知ったうえで、共産党は一連の公約を掲げているのかという点です。

 そして3つ目は児童ポルノの定義を「児童性虐待・性的搾取描写物と改め」と記載されている部分です。

 まずは、現状の我が国の「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」(児童ポルノ禁止法)の論点と問題をご説明します。

 私は2014年4月24日、同法の修正協議の中で「児童ポルノ」という名称を「子どもの性的虐待の記録・児童性虐待記録物」などに変えるべきだと強く主張しました。当時、野党に所属していた私は、共産党の議員とともにこの問題に取り組んでいたのです。

 同法は議員立法だったので、我々が議論して「児童ポルノ」という名称を変えない限り、この法律が何を守る対象にしているのかわからなくなってしまうというのが理由でした。特に問題だったのが、同法で定める児童ポルノの定義です。同法2条3項3号は次のように記載されています。

「三.衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ性欲を興奮させ又は刺激するもの」

 この条文では、「衣服がはだけていて、乳首は出ていないが胸部まで肩が写ってしまっている物」もあたる可能性が出てしまいます。つまり、「それを見て興奮すれば該当する」のです。しかし、世の中には「手フェチ」とか「脚フェチ」とか様々な性癖の方がいますよね。

 ところが、質疑では「(手フェチや足フェチなどは)特殊な人であって、ここでは一般的な人の場合の興奮とか刺激を指します」との見方が大勢を占めていました。この論理では「じゃあ、子どもが虐待されていて興奮する人は普通の人なのですか」との疑問が湧きます。

「普通の人」「特殊な人」の線引きがそうだとするのなら、同法に該当する人は誰なのか。誰もいなくなってしまいますよね。つまり非常にあいまいな規定だったのです。

「顔のみを映した性的虐待中の動画」は対象外

 2014年6月の参議院法務委員会ではさらに、この3号の条文を含め、明らかに被害児童が存在しているのにも関わらず、“児童ポルノ”に該当しない事例が明らかになったのです。

 例えば「性的虐待が実際に行われているが顔のみを写した動画」「性的虐待中の音声」「服の上からロープで縛りムチを使って打たれている写真」などがそれにあたります。

 その一方で、「コスプレ会場で18才未満のコスプレイヤーを撮ったきわどい写真」「被写体は特定できないが18才未満に見える写真」「Facebookなどで収集した子どもの水浴び写真」(親は純粋に成長記録としてアップしている)といった性虐待ではないもの、虐待にあたるか微妙なものが該当してしまう可能性が出てきたのです。

 つまり子どもを虐待から守る法律ではなく、「ポルノ」を禁止する法律になってしまっていたのです。簡単に言うと、児童が“裸かどうか”に重きが置かれしまった。立法の本来の目的は個人法益を守ること、子どもの基本的人権を守るという趣旨だったのに、社会秩序、社会法益を守るものに出口が仕上がっていた。

 だからこそ「性虐待記録物」であれば、実際に虐待させられている事例を確実に対象にできると考え、私は修正要望を出したのですが……。

「児童ポルノ」を「描写物」に変えるとはどういうことか

 では、共産党が今回の選挙で言及した「児童ポルノ」を「描写物」に変えると、どういうことになるのでしょう。もう一段、子どもを守らない法律に変えることになってしまいます。共産党が言及しているように、「描写物」とは創作物、つまり小説、漫画、アニメ、文章などが当たります。児童ポルノの定義を、現行の法律より後退させるのはとんでもないことです。

 私は最初、「描写物」と「記録物」を間違えて記述したのではないかとも思ったのですが、全体の文脈を読んでも「非実在」と入っているので、まさにそれにあたるのです。

 結局、一連の修正協議で「児童ポルノ」を「記録物」に変えることができなったため、同法には大きな禍根が残ってしまったと思います。

 例えば、毎日新聞は2018年12月12日の記事『児童ポルノ 教師ら4.7% 警察庁まとめ所持容疑で検挙』で、「アニメやゲームで児童ポルノを目にした」と記載しました。「アニメ・ゲーム=児童ポルノ」ではありませんよね。私が顧問を務めているエンターテイメント表現の自由の会が主体となって、毎日新聞社会部宛てに質問状を送付しました。

 同社からの回答には次のように書かれていました。

「ご指摘の通り、児童買春・児童ポルノ禁止法が規制対象として定義する児童ポルノには、実在しない児童を描いたものは含まれません。しかし、広義では、児童ポルノという言葉が、実在しない児童を描いたものを指す場合もあると考えています。

 たとえば、欧州評議会が発案したサイバー犯罪に関する条約(略称・サイバー犯罪条約)では、児童ポルノを定義した項目のひとつに、『性的にあからさまな行為を行う未成年者を表現する写実的映像』との記載があります。この項目は実在しない未成年も対象にしていると解釈されています。日本は2012年11月に同条約の締結国となり、条約の内容を承認しています」

 日本とサイバー犯罪条約の関係に関し、この解釈は間違っているのです。その間違いを指摘する上で重要になってくる、国連のブキッキオ勧告の顛末を、次に説明したいと思います。
(構成=編集部、取材協力=山田太郎/自民党参議院議員)

後編に続く

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