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江川紹子の「事件ウオッチ」第221回

首相秘書官発言が露呈した同性婚反対派による不合理な差別と偏見ー江川紹子が斬る!

文=江川紹子/ジャーナリスト
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岸田首相(写真=Getty Images)
荒井勝喜元首相秘書官を更迭し、性的少数者への差別発言について謝罪した岸田首相だが、発言の背景にあった「(同性婚を法制化すれば)社会が変わってしまう」という自身の答弁については撤回しなかった。(写真=Getty Images)

 「見るのも嫌だ。隣に住んでいたら嫌だ」――首相秘書官のこの発言以来、野党が政府の多様性に関する認識を問いただすなど、同性婚の法制化を含む性的少数者(LGBTQ)の人権に関する議論が熱を帯びてきた。東京オリンピックを前に制定機運が高まりながらも、自民党の反対で頓挫した「LGBT理解増進法案」にも再び光が当たる。

 同法案は、2021年に自民党が提案した法案要綱をもとに超党派議員連盟で修正協議が行われ、まとめられた。その議論の過程で、当初の自民党案にはなかった「差別は許されない」という文言が加わったことに、自民党細田派(後の安倍派)など保守派が強く反発。法案は党内で了承されず、お蔵入りとなった。

 今回の首相秘書官の差別発言は、国会で同性婚の法制化について問われた岸田首相が「社会が変わってしまう」と答弁したことについて、記者団に解説する中で飛び出した。そのため、秘書官の更迭で済まされず、岸田首相自身の認識が問われる事態となったのだ。

 5月には先進7カ国(G7)首脳会議が広島で行われ、日本は議長国を務める。岸田首相の檜舞台だ。ところが、G7の中で同性婚も認めずLGBTQ差別禁止の法制度もないのは日本だけ。岸田政権は多様性に無理解、との批判を打ち消そうと、自民党はお蔵入りさせていた理解増進法案への議論を再開することにした。

 ただ、この動きに保守派は警戒感をあらわにしている。

差別禁止が社会を分断? 不合理的な主張で自らを正当化する政治家の面々

 たとえば西田昌司参院議員は、「内心に関わる問題だ。差別禁止と言われれば逆に社会を分断させてしまう」などと否定的な見解を述べた。

 差別とは、正当な根拠なく他者を劣ったものとみなして不当に扱うことだ。それが分断を深めることは、アメリカの黒人差別を巡る白人至上主義の言動とその影響を見れば明らかだろう。

 ところが、西田発言はそうではなく、差別を禁じると社会が分断される、というのだ。極めて分かりにくい。要は、法律によって差別の不当性が明確になって、差別を容認する自分たちが批判されれば、激しく反撃すると予告しているのだろうか。

 性的少数者への差別禁止に反対する政治家たちは、同性婚に関しても猛反対だ。しかし、その反対理由もまた、かなり不合理的で説得力に欠ける。

 その一つが、「LGBTQは種の保存に反する」との主張だ。たとえば2021年5月、理解増進法について協議した自民党の会合で簗和生(やな・かずお)衆院議員が、次のような発言をした。

「生物学的に自然に備わっている『種の保存』にあらがってやっている感じだ」

 2020年に自民党の足立区議が、同性愛について「これが足立区に完全に広がってしまったら(中略)私たちの子どもが1人も生まれないということ」「(同性愛者が)法律で守られているなんていう話になったんでは、足立区は滅んでしまう」と述べたのも、趣旨は同じだろう。

 杉田水脈衆院議員がLGBTQの人たちについて「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」と書いたのも、同根だ。

 同性の組み合わせからは次の世代は出生しない、と強調し、このままでは「種」すなわち日本人は減少し、いずれいなくなってしまう。そういうことにならないよう、同性婚は禁じておくべきだ、と言いたいらしい。

 もし、同性愛者だけの、あるいは同性愛者が多数派を構成する社会であるならば、その主張は意味を持つかもしれない。しかし、現実社会ではそんな想定はしようがない。LGBTQはあくまで「少数者」だ。差別がなくなれば、性的指向を隠さずに生きる人は増えるかもしれないが、同性婚を法制化したからといって、LGBTQの人たちが急増して社会の多数派を占めるというような自体はありえない。

 そんな無意味な想定を、あえて「滅んでしまう」などという言葉を使い、人々を脅しながら展開するのは、かなり質の悪い主張と言わざるをえない。

 もし本気で「種の保存」を心配するなら、そうした政治家たちがやるべきは、同性婚反対などではなく、実質賃金の低下などで結婚したくても踏み切れずにいる人たちを増やし、少子化を加速させた自分たちの政治を猛省し、対策を急ぐことに力を注ぐことだろう。

憲法は同性婚を禁止していないーーにもかかわらず、憲法を“防波堤”にする政治家の本音

 同性婚反対者からしばしば持ち出される、もう一つの「理由」が「憲法」だ。

 憲法24条は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」する、とある。自民党の世耕弘成参院幹事長は今月10日の記者会見で、この条文を挙げて、「読む限り、今の憲法は同性婚を認めていない」と述べた。安全保障に関しては現行憲法下で敵基地攻撃能力を認めるなど、自分たちが進めようとする政策に関しては極めて柔軟に憲法解釈を広げていく一方、結婚に関しては、逐語的に厳格で狭量な解釈を求めるのが、自民党保守派の特徴と言える。高市早苗経済安保担当相や松野博一官房長官も、「憲法は同性婚を想定していない」と強調し、憲法を同性婚阻止の防波堤として位置づける。

 こうした主張について、南野森・九州大教授(憲法)は、「憲法制定時に同性婚は想定されていない、というのはその通りです」としたうえで、こう解説する。

「問題は、その先です。『(1)だから憲法は同性婚を禁止している』と考えるのか。『(2)国会の議論に任せる』のか。あるいは『(3)13条(個人の尊重、幸福追求権)、14条(法の下の平等)から憲法は同性婚を認めることを要請している』と解釈するのか。この3つが考えられるわけです。現在は、憲法は同性婚を想定はしていないが禁止もしていない、という(2)の考え方が(憲法学者の間では)多数です。裁判でも、同性婚の法制化を後押しする判断が出ています」

 まず、2021年には札幌地裁で、同性婚を認めないのは憲法14条(法の下の平等)に違反するとの判決が出た。(3)の立場を支持する判断だ。

 南野教授が注目するのは、(3)の立場に立った昨年11月の東京地裁判決だ。判決は、結婚や家族に関する法制度は「個人の尊厳と両性の平等に立脚して制定されなければならない」と定める憲法24条2項に着目。結婚すれば受けられる、家族としての法的保護を、同性カップルはまったく受けられていない現状は、「人格的生存に対する重大な脅威、障害」と指摘した。そのうえで、同性愛者がパートナーと家族になる法制度がないことは「違憲状態」と断じたのだ。

 判決は、「憲法24条は同性婚を認める立法を禁止するものではない」と述べ、法制度を作ることは「社会的基盤を強化させ、異性愛者も含めた社会全体の安定につながる」として肯定的に評価した。その一方で、具体的な制度のあり方に関しては、国の伝統や国民感情を含めた様々な要因を踏まえ、子の福祉にも配慮して「立法府で十分に議論、検討されるべき」として、国会での議論を促した。

 南野教授は、この判決が「(婚姻は)共同生活に法的保護とともに、社会的承認を与える」とした点にも注目する。

「同性婚を認めない現行制度の下では、同性カップルは社会に認められない生き方をしている人たち、というレッテルを貼られているようなものです。この問題は、非嫡出子(婚外子)に関しても起きました」(南野教授)

 結婚していない男女間に生まれた非嫡出子は、従来の民法規定では、遺産相続が嫡出子(婚内子)の2分の1とされていた。最高裁が、「(子が)自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許され」ないとして、この規定を違憲とする判決を出したのは、2013年9月。それでも、自民党保守派は「家族制度が崩れる」などと、法改正に抵抗した。

 フリーライターの武田砂鉄さんのレポートによれば、先の西田参院議員はテレビ番組で、「ちゃんとした家庭で、ちゃんとした子どもを作ることによって、ちゃんとした日本人が出来て、国力も増える」などと力説。非嫡出子は「ちゃんとしていない」、本来社会が認めてはならない存在であるというレッテル貼りが、民法改正で変わることへの抵抗を示した。もっとも、実際に民法改正が行われて以降、その種の主張を少なくとも表舞台で聞くことはなくなったのではないか。

 同性愛に対しては、「気持ちが悪い」などといった差別と偏見に基づく嫌悪感も浴びせられる。SNSに「同性婚が気持ち悪いと言って何がいけないんですか。世の中には同性婚を気持ち悪いと思う人が殆どです」と書き込んだ愛知県議がいた。この県議は、昨年も同様のコメントをして、自民党会派を離党している。

 今回、報じられた首相秘書官による「見るのも嫌だ。隣に住んでいたら嫌だ」も、同種の発言だ。秘書官は「同性婚導入となると社会のありようが変わってしまう。国を捨てる人、この国にはいたくないと言って反対する人は結構いる」などとも述べた。同性婚を導入すれば国を捨てる人が続出するような、これまた非現実的な脅しをする一方、具体的にどのように「社会」が変わるのかは、問われても全く述べられなかった。

 というより、述べられないのだろう。同性婚を認めても、同性カップルが生きやすくなるだけで、それ以外の人たちの生活や社会のありように、弊害が及ぶことは考えられないからだ。

 結局、同性婚の法制化拒否の本質は、このような差別と偏見に基づく「嫌悪の情」と変化を恐れる「怯え」なのではないか。「種の保存」「憲法違反」「社会が変わってしまう」など表向きの理屈は、嫌悪や怯えを覆い隠し、反対をもっともらしく見せるための、いわば方便にすぎない。首相秘書官の問題発言は、このような反対派の本音を如実に表して見せたように思う。

若い世代ほど「同性婚を法律で認めるべき」と回答ーー変わりゆく人々の意識と政治の役割

 とはいえ、人々の意識は大きく変わってきている。朝日新聞社が2021年に行った世論調査では、同性婚を法律で「認めるべきだ」とした人たちは65%に上った。若い世代ほど「認めるべきだ」と回答する人は多く、18~29歳は86%、30代は80%に及んだ。60代でも66%は「認める」側に立った。こうした数字を押し下げたのが70歳以上で、この層の「認めるべきだ」は37%にとどまる。言うまでもなく、同性婚が高齢者層に何らかの実害を与えることは考えられない。この層は、法的保護も社会的承認もえられない同性カップルの困難さについての情報が十分伝わっていないことも考えられる。

 webサイト「みんなのパートナーシップ制度」によると、自治体が同性カップルに対して婚姻に相当する関係と認めて証明書を発行する同性パートナーシップ制度は、全国1757の自治体のうち、すでに259が導入。人口普及率は65.2%に達している。

 こうした数字を見れば、もはや多くの国民がすでに同性婚を受け入れている、と言えるのではないか。近い将来、「嫌悪の情」や「怯え」はさらに退潮していくだろう。にもかかわらず、高齢者層と一部の人たちの感情によって、制度の改善にブレーキがかけられている。それが今の状況だろう。

 南野教授はこう問いかける。

「欧米でも、今なお同性婚を『気持ち悪い』と言う人はいる。それでも、法制化されることで、社会的な承認が広まり、“日陰の存在”ではなくなってきた。21世紀になって、世界の状況は大きく変わっている。南米やアフリカでも同性婚はどんどん認められるようになっている。日本がいつまでも20世紀のまま留まっていていいのでしょうか」

 もはや理解増進法の文言を巡って足踏みしている場合ではないだろう。政治は、最高裁判決を待たずに、同性カップルを家族として認めるための法制度の構築について、そのあり方を議論し始める時ではないか。(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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