新型コロナウイルスの感染拡大を受けて「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が改正され、それに基づく緊急事態宣言が発令されたあとに、東京・歌舞伎町のセクシーキャバクラを訪れたことが発覚し、批判を浴びた高井崇志衆議院議員。「週刊文春」(文藝春秋)と「週刊新潮」(新潮社)が同時に報じたこともあって批判が高まり、立憲民主党離党を余儀なくされた。
この騒動の影に隠れる格好になったが、新型コロナの感染拡大が問題になっていた3月下旬に、深夜の新宿二丁目で警察と大立ち回りを演じたのが、同じく立憲民主党に所属する石川大我参議院議員である。
石川氏は豊島区議会議員を経て昨年7月に立憲民主党から立候補し、ゲイであることをカミングアウトし、LGBT(性的少数者)やその支援者たちの後押しを受けて当選を果たした人物だ。
4月になり発覚したところによれば、3月20日の深夜、石川議員は新宿二丁目でたまたま通りがかったパトカーをにらみつけてスマートフォンで撮影を開始。警察官が声をかけて撮影をやめるように注意したところ、石川議員は「オレは2丁目を偉そうに歩き回る警察を撮るのが趣味なんだ」と応酬。さらには「オレは国会議員だぞ! ビビっただろう」と叫んだという。
警察はLGBTをターゲットにしているわけではない
近隣で開催された会合に出席したあと、酒に酔って起こした騒動といわれているが、多くの批判の矛先は、なぜか警察に向けられている。それは、LGBTの権利向上を求める一部の活動家が主張する「警察はあえてハッテン場の前に張り付いている」「二丁目に集まるゲイを、性的指向を理由に職質のターゲットにしている」といった意見に賛同の声が寄せられているためだ。
警察が二丁目界隈を重点的に巡回しているのは事実だが、その理由が「集まる人々の性的指向」であるという主張は、まったくの間違いのようだ。
同じく自身がゲイであることをカミングアウトしている元参院議員の松浦大悟氏は、警察が二丁目を巡回する理由を「薬物が蔓延しているから」だと指摘する。
「二丁目に薬物が蔓延しているのは事実です。2014年に所持が禁止された危険ドラッグ『ラッシュ』は、規制以前には多くのゲイに用いられていました。それを使うと肛門が弛緩して性行為が気持ちよくなるというのが理由です。利用者たちの間では、規制された今でも薬物に対する危険性の認識は甘いままです」(松浦氏)
ゲイの間では、危険性の認識が甘いどころか「ラッシュが規制されていることのほうがおかしい」という認識を持つ者も多いという。たとえば、2016年にラッシュの所持で逮捕された元NHKアナウンサーの塚本堅一氏は、ゲイであることをカミングアウトしたうえで、ラッシュについて「以前は雑貨店などでも売られていたことから危険ドラッグであるとの認識はなかった。ほかの危険ドラッグを取り締まるためにラッシュもまとめて禁止されてしまった」などと、薬物使用を許容する主張をしている。
そんなことは、石川議員の一件で警察を批判する「活動家」も知っているはずだと、松浦氏は語る。
「みんな知っていることですよ。もちろん、石川さんも。そして薬物の蔓延を問題視して警察に通報しているのも、二丁目の人たちです。ところがここ数年、LGBTの権利が注目され、社会的に認知されるようになってきたなかで、“都合の悪い部分”は隠しておきたいとの思惑が働き始めているんです。そのため、警察が二丁目を重点的に巡回していることについて、活動家は警察批判をすることで真実に目が向かないようにさせているんです。ハッテン場だって、一般的には日本の法律では許容されない性風俗といえますが、そうした問題にはあえて触れないようにしているんですよ」(同)
社会的弱者の声は無視され、活動家の声ばかり取り上げられる
そうした世間から見えない部分のゲイのライフスタイルは、新型コロナが感染拡大するなかでも問題視されているという。
「厚生労働省のクラスター対策班の西浦博氏が、感染拡大の事例として<性的に男性同士の接触がある人も多い>と発言したところ、“同性愛差別”だとして炎上しました。ゲイが頻繁にセックスを繰り返し、経験人数が多いということを発言すると、必死で攻撃してくる人がいる。私も以前、小川榮太郎さんとの対談(『月刊Hanada』2018年12月号)で<ゲイの経験人数は平均で3桁>と指摘したところ、嘘つき呼ばわりされました。でも、それは曲げることのできない事実です。私はそれを踏まえたうえで、刹那的な生き方に蓋をする同性婚の必要性を訴えたのですが、彼らは耳を貸そうとしませんでした。<差別>という言葉は、活動家にとってのキラーワードであり、それが発せられると、みんなが思考停止に陥ってしまうのです」(同)
東京大学文学部教授の三浦俊彦氏のように、データに基づいてゲイの経験人数の多さを提示する研究者もいるが、そうした意見は目を背けられるばかりだ。
「“ウリ専”(編注:男性による男性のための性風俗)には、家庭の事情や貧困で流れてきている若い男性も多いんです。彼らはコロナ禍でも働かざるを得ません。ところが、活動家の声ばかりが取り上げられ、こうした小さな声は届かないのが実情です。本当の弱者は無視されているのです」(同)
新型コロナの影響を受けて風俗店で働く女性が苦境に陥っていることについては、わずかなりとも社会も目を向けるようになってきている。ところが、より社会的に弱い立場の人々の存在は無視されているのだ。ゲイ同士の「出会い系サイト」を覗くと、不要不急の外出自粛を無視するかのように“出会い”を求める書き込みが続いている。
(文=昼間たかし/ルポライター、著作家)