最近、本業とは違うところで、少々話題を呼んでしまったが、私がなにかとんでもないことをしたわけではない。そもそもすごい間違った解釈から巻き起こったことだが、それはおいといて、いよいよである。場違いというなかれ。拙著『ムショぼけ2』が発売される。
かわいそうに、「自称作家」だ「ライターもどき」だなど一部で言われているが、え~い、だまらっしゃい! 私は小説家なのだ。謙遜して、作家といってはいるが、心は常に小説家なのだ。
しかも「あんな文章なら誰でも作家になれる」だと!!! 待て待て待て。あれを送ったのは深夜0時26分と深夜2時29分なのだ。小説家だぞバカヤロウ! 原稿を書いてないときはまともに文字が打てないくらい、酩酊している時間に決まっているだろうが! ……すまぬ。つい冒頭から脱線してしまった。そんなことはどうでもよい。
話は、小説『ムショぼけ2』である。
読んでから聞いてやろうではないか。本当に誰でも作家になれるか。いや、なんだったらこれまで出した書籍13冊を読んでから聞いてやろうではないか。誰でも小説家になれるか読んでから……すまない。また、本題から外れてしまった。
ただ、ふと思うことがある。小説家になろうと筆を握り、今年で苦節21年。最初の10数年、世間からうんともすんとも言われなかったのに、よくもまあ書き続けることができたものである。
無知とは時に武器になるのだろう。実際、すぐに売れると思っていた。どうやったら売れるかという対策どころか、そもそも出版の方法も知らなかったのに、最初の携帯小説を描き終えたとき、「これは来たな……」と本気で思っていた。
もちろん、どこにも誰にも何も来ずに、そこから悶々とした歳月を送ることになるのだが、それでもいつも筆を握っていた。どうしても書けない日には、売れた日のことを想像して、自分を鼓舞した。あの頃の想像の中にいた私と、今の私は全く違うだろう。
まだインターネットも普及されていなかったので、物書きの実情に関する情報も乏しく、小説家がこんなにも儲からない職業とは知らなかった。特に昨今の活字離れは激しく、かつて夢にまで見た100万部なんて、この先も叶うことはないだろう。
だけど、運だけで来たわけではない。誰よりも、書いて、読んで、写して、を繰り返してきた。誰に導かれたわけでも、教えを乞うたわけでもない。だから、諦めるのは簡単だった。誰にも求められていなかったし、止める人もいなかったわけだから、自分が書くのをやめれば、そこで済む話だった。書くのをやめて、慢性化していた睡眠不足を解消すればよいだけのことだ。そうしていたら、どれほど楽だったか。
犠牲にしたのは時間や睡眠だけではない。さまざまなことを犠牲にし、書くためだけに捧げてきたのだ。何の自慢でもなんでもない。ただ、書くことは楽しいことよりも、辛くて苦しいことの繰り返しだった。だからこそ、本が出来上がったときには、万感の思いがこみ上げるとでも言えばいいだろうか。さまざまな想いで胸がいっぱいになるのだった。そして、必ず熱が出るのである。その熱が引くころには次の作品の用意に入る。それがいつしかルーティンになっていた。
主人公・陣内宗介はボケているからこそ愛される
『ムショぼけ』はもう説明するまでもないだろう。昨年10月から地上波ドラマとして映像化された作品だ。私にとっては初の映像化作品で、制作過程においてはさまざまな出会いがあった。それは「書き続けてよかった」と思える瞬間だった。
自分で言うのもなんだが、昔から私は損ばかりしている。困っている人間を見ると、ほっとけないし、頼られると滅法弱い。だが、自腹を切ることも多いし、感謝されないこともある。そんな感じで損ばかりしているが、そういったところを『ムショぼけ』の主人公である陣内宗介に少し投影できたのかもしれない。
同作のシーズン2ともいえる『ムショぼけ2』でも、陣内宗介はテレビドラマのまま、ちゃんと、まだムショぼけを患っている。サブタイトルの「~陣内宗介まだボケています~」は、ドラマの撮影秘話だが、私が「今度は沖縄を舞台にした特別編をやりたい」とテレビ局サイドに言い出したことがあったのだ。その際に、誰かが言ったのだ。
「だったら、(特別編のタイトルは)陣内宗介まだボケてます~でいいんじゃない?」
辺りは笑いの渦に包まれていた。結局、陣内宗介はボケているからこそ愛されるのだ。その時には、もう私は『ムショぼけ2』のサブタイトルは、それで行こうと決めていたのだった。
今回の作品にも、ドラマ版のオリジナルキャラだった夜勤部長を始め、オカンにシゲ、ナツキ、しょうぞうにサトシにHIRO。そして回想のリサ。みんな健在だ。またたっぷりとムショぼけワールドを堪能してもらえれば、幸いである。
ドラマの撮影中3日間。朝から晩まで、朝日放送に詰めっぱなしで、撮影を行ったことがあった。まるで、それは文化祭本番に向けて、みんなで練習をしているようであった。私はときどきそれを、学生時代の出来事のように懐かしく思い出すのであった。
(文=沖田臥竜/作家)
●『ムショぼけ2〜陣内宗介まだボケています〜』
14年間の獄中生活を経て出所した元ヤクザ・陣内宗介は、社会や文化、そして友人や家族の変化に惑わされる、まさに『ムショぼけ』状態だった――。
しかし、宗介は持ち前の侠気と愛される人柄で奮闘。怒りと笑いと涙が飛び交う日々の中、家族も仲間も、そして宗介自身も、どんな時代でも変わらぬ「大事なもの」と向き合いつつ、成長していくのだった。名優・北村有起哉さんの初主演ドラマとしても高い評価を得た『ムショぼけ』(2021年10月~12月/ACBほかで放送)。現在、NetflixやU-NEXTなどの配信での再生も好調で、SNS上にも多くのコメントが寄せられている。
本書は、そんなドラマ『ムショぼけ』の「その後」を、原作者・沖田臥竜が描き下ろした快作。さらに、『ムショぼけ』誕生までの裏側を綴ったエッセイの数々も収録。
定価:本体1200円+税/発売:サイゾー
amazonで先行発売中
3月末より全国書店で発売開始