人事部は社員の出世をどう決めている?社員全体の底上げより、管理職候補へ重点教育の傾向
●企業の人事部が求めているのは「リーダー人材」
さて今回は、「事実」を知るところから始めたいと思う。
日本企業の場合、働く人の能力評価に人事部が深くかかわっていることがほとんどだ。人事部がどのように社員を見ているか、どのような人を評価し、出世させようとしているのかを知ることは、自身のキャリアアップを考えるにあたって非常に重要である。
2010年に出版された『7割は課長にさえなれません』(PHP新書/城繁幸)が当時話題になった。高度成長期のような右肩上がりの経済下で管理職ポストが増え続ける時代は過去のものとなり、かつては真面目に勤めてさえいればいつかは課長になれたが、今では課長にさえなれない人のほうが圧倒的に多いというのだ。
では企業の人事部は、課長候補群の中から選りすぐって課長を選んでいるのだろうか? あなたが課長になるためには、多数の適任者間の激しい競争が必要なのだろうか。
現実には、それがそうでもないのだ。そもそも、課長になりたいという若者や女性が減っていることもあるが、人事部は課長の適任者そのものが非常に少なくなっていると感じているのである。
本稿冒頭の「図1:現在の人事の最重要課題(採用・育成系)」を見ると、人事部が人材採用、育成の課題で最も重要だと感じているのは「次世代リーダー育成」であり、ダントツの1位となっている。企業は自社にリーダー人材が大幅に欠けていると感じているからこそ、その育成により力を入れようとしているのである。
当社が「企業は今後、どの階層の研修強化を予定しているか?」について調査したところ、「管理職手前」が1位となっている。「手前」であることがミソである。これまでは管理職になった人への研修のほうが多かったのだが、今後は管理職の適任者を増やすための研修を強化しなければ、適任者自体が増えないと人事部は感じているのである。
また、同調査より、企業は今後、社員全体の能力・スキルアップの底上げを行うのではなく、選抜した人への教育投資を強化しようとしており、大企業ほどその傾向が顕著であることが読み取れる。
●企業から「リーダー人材」と認められることが重要
キャリアアップとは管理職になることではない、という人がいるだろう。その通りだ。しかし、企業の中で責任ある仕事を得ていくには、管理職になることが主要な方法であることは間違いない。また、管理職になると、今まで見えなかった企業の仕組みが理解でき、視野が広がることにもなる。
ただ問題なのは、特に大企業の場合、管理職になるのが40歳近くになってからというところも少なくなく、キャリアアップの観点からは遅すぎるといえる点だ。かえって、ベンチャー企業に入って早く管理職になるほうがずっと成長するし、リーダーの経験をする意味でも好ましいといえる。
そこで視点を変えると、管理職になること自体に目標を置くのではなく、リーダー人材と会社から認められるようになることを目標に置くとよいだろう。企業からリーダー人材と認められれば、その企業の教育投資の重要な対象になれるため、非常に意味がある。企業側は、リーダー人材には教育投資を強化するとともに、重要な仕事を与え、その仕事をやり遂げていく力を見ようとするだろう。
では、どうすればリーダー人材になれるのか。どうすれば、リーダー人材と認められるのか。どのようなキャリアアップをすればよいのか。
この問いへの回答が簡単ではないことは確かだ。企業によってリーダーの定義も違う。どうすればリーダー人材になれるのか、本連載で段階的に述べていきたいが、本稿でひとつ真理を挙げれば、どんな小さなビジネスの単位、グループ、勉強会、プライベート、どんな場面でもいいので、自ら手を挙げてリーダーの経験を積み重ねることで、リーダー人材になる道が拓けるということである。
リーダー経験を積む中で、リーダーが周りからどのようなことを期待されるのか、やるべきことは何かが見えてくる。自分の特性を生かしたリーダーシップの発揮の仕方もわかってくるかもしれない。時にはチームをまとめることに失敗するだろう。それも次のリーダーを担う経験の際に大きな財産になる。真のリーダーは、リーダーを何度も経験するところから生まれてくるものである。
(文=寺澤康介/HRプロ社長、HR総研所長)●寺澤康介(てらざわ・こうすけ)
HRプロ株式会社代表取締役社長、HR総研所長。1986年慶應義塾大学文学部卒業。同年文化放送ブレーン入社。企画制作部長等を経て、01年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。常務取締役等を経て、07年採用プロドットコム(10年にHRプロに社名変更)設立、代表取締役社長に就任。5万5000人以上の会員を持つ日本最大級の人事ポータルサイト「HRプロ」、日本最大級の人事フォーラム「HRサミット」を運営する。約25年間、大企業から中堅中小企業まで幅広く、採用。人事関連のコンサルティングを経験。「週刊東洋経済」「労政時報」「企業と人材」、NHK、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、「AERA」「週刊文春」などに執筆、出演、取材記事掲載多数。企業、大学等での講演を年間数十回行っている。