コンビニチェーンのローソンで今、悪魔に扮したタヌキのイラストをよく目にする。同イラストが目印の「悪魔のおにぎり」は、単日売上記録で20年間首位であったシーチキンを抜き1位になる程の人気ぶりだ。
このおにぎり、実は南極で生まれたのだ。『南極ではたらく かあちゃん、調理隊員になる』(渡貫淳子著、平凡社刊)は、普通の主婦だった渡貫さんが、南極観測隊の調理隊員として挑んだ1年4カ月をつづったものだ。
本書によれば、昭和基地での生活にはいくつかの制約がある。その一つが生ごみだ。
南極大陸において、持ち込んだものはすべて日本に持ち帰らなくてはならないため、少しでもごみを出さないように工夫をする必要がある。渡貫さんはその工夫の1つとして、夕飯で残ったご飯にいろいろと混ぜてはおにぎりを作っていたそうだ。
天ぷらうどんがお昼ごはんだった日のこと。渡貫さんはいつものようにあまった天かすでおにぎりを作った。ご飯は天つゆで味付けし、アクセントにあおさのりも入れた。
このあおさのりも「悪魔のおにぎり」に欠かせないものだが、これにも南極ならではの事情があるという。
あおさのりを使う料理にはお好み焼きがあるが、貴重な生野菜であるキャベツを大量に使うお好み焼きは頻繁に作ることができない。結果、あおさのりが活躍する機会も少なかったのだ。
当初、隊員たちから夜食として喜ばれていたこのおにぎりは、「悪魔」ではなく「たぬきのおにぎり」と呼ばれていたという。それが「悪魔」に変わる瞬間は、こんな隊員の一言があったそうだ。
「いや、このおにぎりって悪魔っすね。うまいから食べたいんすけど、絶対カロリー高いじゃないですか。こんな時間に食べるには危険なんだよな」(p.85)
「悪魔のおにぎり」誕生の瞬間である。帰国後、テレビ番組「世界一受けたい授業」に出演した渡貫さんがこのレシピを紹介したところSNSでたちまち話題となり商品化。「悪魔のおにぎり」は一躍ローソンの主力商品にまで昇りつめたのだ。
本書は「悪魔のおにぎり」にまつわるエピソードだけではなく、南極基地ならではの非日常が渡貫さんの目を通して綴られており、南極での生活を身近に感じられる一冊だ。「悪魔のおにぎり」をかじりながらぜひ読んでみてはいかがだろうか。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。