『鬼谷子』という中国古典を知っている人は少ないかもしれない。日本でよく読まれている中国古典といえば、『論語』『孫子』『老子』『三国志』といったものが挙げられるだろう。しかし、この『鬼谷子』の著者とされる鬼谷子(きこくし)は、中国戦国時代の英雄、蘇秦と張儀の師とされた人物。中国戦国時代に各国の王を弁舌で動かすための言葉の技術と理論が書かれた書なのだ。
『鬼谷子』(高橋健太郎/著、草思社/刊)は、孫子の師匠と言われ、始皇帝に不老不死の薬を教えたとされる謎の賢人・鬼谷子の残した一冊の書に書かれている「言葉」と「策謀」の技術を紹介した一冊だ。
そもそも『鬼谷子』とはいったいどんな本なのか。その著者とされる鬼谷子は、誰なのか。
鬼谷子は、本名を王ク(※クはごんべんに羽)といい、今の河南省にある雲夢山に住んでいた賢人であるという。中国では、始皇帝に不老不死の霊薬を教え、「孫子」に兵法を授けた人物とも知られている。しかし、これらの経歴は、本名を含め、すべて言い伝えや伝説であり、本当かどうかはわかっていない。
謎の多い鬼谷子の弟子が、中国戦国時代の英雄、蘇秦と張儀だ。「戦国七雄」と呼ばれる秦・楚・斉・燕・趙・魏・韓の7つの有力な国に分かれて争っていた。こうした争いの中、さまざまな人物が諸国を回り、自分の政策や思想を取り上げてもらおうと有力者に弁舌をふるっていた。こうした人々を「縦横家」という。そして、その中でも歴史上に際立った足跡を残したのが、蘇秦と張儀だ。彼らは、その弁舌で戦国時代の天下を自由自在に動かしたことで知られている。ただし、師である鬼谷子自身については、記録上、彼らに弁舌の技術を授けたということ以外は、まったく分かっていない。そのため、『鬼谷子』という著書の出自についても謎が多い。
後世の研究では、『鬼谷子』という書の正体について、鬼谷子の教えを蘇秦がまとめたものだという説、あるいは、今は失われている『蘇子』という蘇秦の著者が『鬼谷子』という名前になった説、蘇秦の著者と張儀が合わさって『鬼谷子』になったという説などがあるそうだ。いずれにせよ、『鬼谷子』という書物には、蘇秦や張儀といった戦国の縦横家たちが乱世でふるった実際の言葉の操り方の精髄がおさめられているということだ。
『鬼谷子』に書かれているテーマは、言葉を駆使し、他人を動かす技術。王という自分より強い立場の人間を、自らの身を守りつつ言葉で動かす「策謀」の技術だ。
本書は、『鬼谷子』を「言葉の技術書」として実践的に読み解いたものであり、現在のコミュニケーションでも、参考にできるところは多いはずだ。
(新刊JP編集部)
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※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。