地球の表面の7割は海底だ。
その海底がどうなっているか、私たちの多くは知らないが、実は「底生生物」の巣穴だらけなのだそうだ。底生生物とは、カニ、エビ、ウニなどの海底に生息している生き物の総称である。
そんな底生生物の不思議な生態や巣穴紹介するのが『海底の支配者 底生生物』(清家弘治著、中央公論新社刊)だ。
本書では、海底生物と海底地質学を専門とし、巣穴研究の最前線に立つ著者が、自身の研究の成果、研究の過程で経験したことなどと共に、底生生物の謎と魅力に迫る。
■海底に作られた「Y字型」の巣穴 住んでいるのは?
海底ではどんな生物がどのような巣穴を作っているのか。巣穴の形や大きさは、それを作る底生生物の種類によって大きく変わる。
たとえば、甲殻類であるアナジャコの巣穴はとても長い。アナジャコの体長が10センチ程度なのに対し、なんと巣穴の長さは2メートル以上。そして、この巣穴の特徴は、Y字型であること。海底に2つの入り口があり、そこから続くトンネルが地中深くで繋がり、さらに下の縦穴へと繋がっている。
アナジャコの巣穴がY字型になっている理由は、主食であるプランクトンを食べるためだとされている。
アナジャコのお腹にある「腹肢」というウチワ状の器官を使うことで、巣穴の中に水流を起こし、入り口の一つから絶えず巣穴へと新しい海水を取り込む。
その海水の中にいるプランクトンをアナジャコは食べているという。
そして、プランクトンを濾しとり終えた水を、もう一方の入り口から排出する。
つまり、海水が循環しているのだ。この巣穴は周辺の生態系にも大きな貢献をしている。水を取り込み、プランクトンなどの浮遊物を濾過して海水を排出するシステムは、空気清浄機のようなもの。
条件が良いと、1平方メートルあたりに200匹以上のアナジャコが巣穴を作って生息している。アナジャコによって、干潟一帯の海水を濾過しているのである。
ところ、研究者は、海底の下にある巣穴の形状をどのように調べているのか。
これは意外と単純。巣穴を「型どり」しているそうだ。巣穴の入り口から樹脂や石膏を注ぎ、固まったら周囲の堆積物を取り除いてそのまま採集する。樹脂中に閉じ込められた巣穴の主も一緒に採れるので、重要な標本として巣穴研究に活かされるという。
ここであげたアナジャコの他にも本書ではさまざまな底生生物が登場する。ユニークな底生生物の生態を、本書を通してのぞいてみてはどうだろう。
(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。