ウラジミールは当時アメリカに不法入国し、スパイ活動を行っていた。
彼は防衛関係の機密文書を所持していた罪で逮捕され、取調べを受けた。その取調べを担当したのが『元FBI捜査官が教える「心を支配する」方法』(栗木さつき翻訳、大和書房刊)の著者の一人であるジャック・シェーファー氏だ。
ジャック氏は20年にわたりFBI捜査官として行動分析プログラムに関わってきた。
そして、任務をこなす中で、人に好かれ、信頼してもらい、相手を意のままに動かす有効な方法がわかってきたという。
これらは恋愛や仕事の人間関係など、日常生活にも応用できる技術だ。「スパイをスカウトするテクニックは、異性をデートに誘うときにも使える」というように。
話を取り調べに戻すが、スパイのウラジミールは最初、「何があろうと、いっさい話すつもりはない」と断言していたそうだ。そこでジャック氏は彼の正面に座り、ただ新聞を読み始めた。そして慎重にタイミングを見はからい、落ち着きはらった態度で新聞をたたむと、ひと言も発することなく部屋を出た。
この動作を翌日から数週間にわたって続けた。手錠につながれた状態で押し黙っていたウラジミールだったが、やがてついに「なぜ毎日、自分に会いにくるのか」と尋ねた。「あなたと話がしたいからです」と答えるジャック氏。しかしその後はウラジミールを無視して再び新聞を読み、立ち去った。
次の日も、なぜ毎日ここに来て新聞を読むのかと尋ねるウラジミールに、ジャック氏は「あなたと話がしたいからです」と同じ答えを繰り返した。
ほどなくウラジミールは、「話をしたい」と自ら切り出してきたそうだ。ただし、スパイ活動に関する話はしないという条件付きだ。ジャック氏はこれを呑み、翌月までさまざまな話をしたという。
そしてある日の午後、ついにウラジミールは「これまでしてきたことを話す覚悟ができた」と明言した。それはジャック氏のことを「友人」と見なし、好きになったからなのだそうだ。
本書には人に好かれる公式が書かれている。
近接+頻度+持続時間+強度=人物の好感度
というもので、「近接」とは相手との距離、「頻度」とは相手と接触を重ねる回数、「強度」とは、言葉で、あるいはしぐさや態度などで、相手の望みをかなえる程度だという。
ウラジミールの件を照らし合わせてみると、確かに取調室という近い距離で毎日、長期にわたって会っている。また、「あなたと話がしたい」という好意的な言葉をかけ続けてもいた。相手を好きになる条件はすべてそろっていたのだ。
FBIのテクニックを応用すれば、一瞬にして信用してもらうことも、生涯の友人として絆を結ぶことも可能だという。
心理学の博士でもあるジャック氏のテクニックは科学的な根拠に基づくものだ。そして、人と親しくなるための技術は、使えば使うほど上達するという。FBIの心理術はあなたの社交を大いに助けてくれるだろう。
(ハチマル/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。