昔から「失敗は成功の母」といわれるが、國學院大学が3月上旬、「失敗」をテーマに東京・渋谷で異色のトークライブを開催した。失敗は誰にとっても、どんな組織にとってもつらく、くやしいものだが、そこからどう教訓を学びとるかが重要なのは、今も昔も変わらない。このライブトークでは、國學院大学の若手研究者と外部のゲストが3日間にわたり、失敗に関するさまざまな議論を展開した。
1日目は「歴史×IT」、2日目は「経済×宗教」、最終日の3日目は「政治×こども」という異なるテーマの組み合わせで、プレゼンテーションとトークセッションが行われた。
歴史とITのセッションでは、國學院大の矢部健太郎准教授が「戦国エリートの思考回路」というテーマで失敗を解説。矢部氏の専門である戦国時代に「おちど」という言葉が使われたが、その表記は今使う「落ち度」ではなく「越度」、つまり度を越えてしまったという表現だったという。決して怠慢していたわけでなく、果敢に挑戦したが自分のキャパシティ(能力)を越えてしまったという、どちらかといえば積極的な意味を持ったものだったというエピソードを紹介した。
このほか、ITベンチャーの経営者が「今振り返ると失敗だったこと」を発表し、周囲の指摘に耳を傾けることで気づくことができた経験を話した。経営者は、部下には自分の失敗をバネにしてもらい、次のステップにしてもらうことがリーダーの役割だと述べた。さらにゲストで招かれた現役の新聞社幹部などが、それぞれの失敗の経験から学んだ教訓を披露した。
会場には勤務を終えた後のビジネスパーソンなどが数多く参加し、連日満席の盛況ぶりだった。プレゼンテーションとトークセッションにいずれも熱心に聞き入り、熱心にメモを取る姿もみられた。
失敗学は近年、各界で注目され、さまざまな書籍が出版され関連のフォーラムなども開催されているが、どちらかといえば若い仕事帰りのビジネスパーソンを対象にしたこの種の夜の会合は珍しい。
現代の企業社会では、成果主義や短期的な業績が重視されるため、「自分だけは失敗したくない」と萎縮して「守り」に入るビジネスパーソンも増えている。そんななか、失敗する前に教訓を学んでおきたいという考え方が広がっているという印象も強い。
國學院大が主導して大学の地元である渋谷ヒカリエの会場が参加者で満杯となったことは、失敗学への関心の高さをうかがわせた。國學院大のこうした取り組みは他の大学などにも広がることが予想され、大学がビジネスパーソンなどに存在感を示し、研究の有用性などを訴えかけてゆくモデルケースとなりそうだ。
(文=編集部)