最近、書店のビジネス書コーナーへ行くと、「雑談力」について書かれた本を目にすることが増えた。実際、ビジネスシーンにおいては、雑談を巧みに使うことで相手との関係が良くなり成果に結びつくことは珍しくないのだろう。
だが、コミュニケーションに苦手意識を持っている人のなかには、いざ「雑談をしよう」と思っても何から手をつけていいかわからないという人も多いのではないか。
そこで今回は、「雑談接客」なる言葉をかかげ、新幹線の車内販売員として驚異的な売上を叩き出していたという、『神対応のおもてなし』(神宮館刊)の著者、茂木久美子さんにお話をうかがった。
■カリスマ販売員が仕事を終えてから必ずしていた「準備」とは
――茂木さんが、販売員の仕事をする上で大切にしていた「準備」とは、どのようなものでしたか。
茂木: まず、仕事帰りの電車のなかで「その日あったこと」をしっかり振り返るようにしていました。
「あのお客様、『孫に会いに行く』と言っていたけど、いまごろ東京に着いて会っているのかなぁ」「今日はあまりビールが売れなかったな」と、いいことも悪いことも、全部ひっくるめて。振り返るなかで、「もっと、こうしておけばよかった」という改善点が見えてくるからです。
それと、翌日のシミュレーションも必ずやっていましたね。翌日、自分が乗車する時間帯をチェックした上で天気予報やイベント情報などを調べ、「明日は晴れて暑くなりそうだし、ダンスの全国大会があって学生さんも多く乗ってきそうだから、今日よりもジュースを沢山積むようにしよう」などといった具合です。
「車内販売って、どのワゴンでも同じものを積んでいるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、何の商品を積むかは、それぞれの販売員の裁量に委ねられているんですよ。
――なるほど、翌日のシミュレーションをする上では、そういった調べものが欠かせなかったんですね。
茂木: それに、お客様との雑談のために、ネタを集めたりもしていましたよ。「できるだけ旬な話題を」と思って。
――新幹線の乗客者は層が幅広いと思います。ひと口に「旬な話題」といっても、候補になるものが膨大にありすぎて大変ではありませんでしたか。
茂木: そうですね。なので、できるだけ身近で誰しもが興味を持ってくれそうなものから選ぶようにはしていました。鉄板ネタだったのは、占いや血液型に関するものでしたね。
■「天気がいいですね」はマニュアル接客でしかない
――いまのお話と関連するかもしれませんが、本書のなかで出てくる「雑談接客」という言葉が印象的でした。
茂木: 雑談接客とは、お客様ひとり一人に合わせた雑談をすることを指します。