ある会社が、落ち込んだ業績を元の水準に戻すことは、誰が考えても難しい。
業績が落ちた理由は複合的であるのに対して、一度に打てる手は限られているからだ。だからこそ、経営者は自社の問題をクリティカルに探り当てる目が必要となる。
そんな観点から見ると、『和衷協同―――人と建物の調和が、ビルに新たな価値を宿す』(ダイヤモンド社刊)に書かれている、ビルなどの施設管理を請け負う株式会社セイビ(以下セイビ)のV字回復は興味深いかもしれない。
■売上回復のカギは営業改革
本書の著者、島田四郎さんがセイビの社長に就任したのは2005年。バブル期に最大140億円にまで伸びた後、下り坂に差しかかった年商が、ついに100億円を割り込んだ時期だった。
2006年の本社の年商は94億円。まさに危機的な状況で、有効な策を打たなければいずれ経営が立ち行かなくなるのは目に見えていた。
小手先の改善ではどうにもならないほど落ち込んでしまったセイビを立て直すために、島田さんが業績改善の指標として定めたのが、営業利益でも自己資本比率でもなく「売上」だった。
となると、第一に取り組まなければならないのは営業部の改革。島田さんは「営業開発部」という、新規開拓と事業範囲拡大の専門部署を立ち上げ、新築中のビルに営業をかけていったが、特に重視したのは「関連施設が多いビル」だったという。
たとえば、ある企業が自社ビルを建てるとすると、そのビルの施設管理をセイビが受注できれば、その会社の支社や支店、出張所、社員寮といった関連施設の管理も受注できる可能性が高くなる。こうすることで効率のいい営業ができるというわけだ。
■サービスクオリティを上げ、人件費を下げる「サービスの専門化」
この施策で売上は徐々に回復していったが、これだけではまだ足りない。次いで田島さんが着手したのは、自社のサービスクオリティの底上げ。その一手として「サービスの専門化」を進めた。
一口に施設管理といっても、オフィスビルとビジネスホテルでは現場の仕事は全く異なるし、施設が高級化するほど、要求されるサービスのレベルは上がる。
たとえば、ある高級ホテルの場合「シーツにコインを落としたら、一定の高さまで跳ね上がってくるだけの張りのあるベッドにしなければならない」といった基準を、チェックイン前のわずかな時間で全室クリアしなければならない。
こうなると、専門性の高いスキルを持ったスタッフを育てることが必須になる。ホテルに限らず、施設ごとに必要とされるスキルも業務経験も資格も違うため、「ホテル管理を専門にする会社」「マンション管理を専門にする会社」というように、扱う施設ごとに分社化して、専門性を高めた方がサービスの質も上がり、業務効率も良くなるのだ。
これらの施策がはまり、セイビの年商は2015年にはグループ全体で290億円まで上昇。島田さんが社長に就任した時は154億円だったため、およそ2倍になったことになる。
本社の年商は92億円だが、基幹となるサービスを専門のグループ会社に振り分けているため、もはや比較には意味がないだろう。まさにV字回復である。
『和衷協同―――人と建物の調和が、ビルに新たな価値を宿す』では、セイビが業績回復のために行った施策や、大胆な組織改革の始終がつづられている。その経過からは、企業人であれば、どんな人であっても得られるものがあるはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。