このコロナ禍で社会が大きく変化していることを感じている人も少なくないだろう。例えば、テレワークを実施する企業が増えていることもその一つ。以前からデジタルシフトに手を打ってきた企業は、コロナの影響を最小限に食い止めている一方、今までのやり方に固執していた企業は大きな影響を受けている。
このようなことは今回だけでなく、幕末や戦後、バブル崩壊など、時代の変わり目にいつも起きていること。今も昔も人間は変わらない。同じような失敗を繰り返してきたのだ。
時代の大きな出来事の中で変化に対応し、生き抜くためにも、歴史上の失敗を紹介し、教訓としていくのが、本書『日本史のしくじり史』(大中尚一著、総合法令出版刊)だ。
■新しい秩序の中で生き抜ける人が持っているものとは?
尾張の一地方領主から、室町幕府を滅ぼし、政治・経済の中心だった近畿を平定した織田信長。本能寺の変がなければ、天下統一の可能性も高かった。
一地方領主だった信長に勝てなかった他大名は、どこに差があったのか。それは軍事力や経済力ではなく、「ビジョン」の有無だ。「どんな世界をつくりたいか」というビジョンが明確にあった信長は、多くの人を巻き込めたのだ。
信長以前の大名たちが考えていたのは、領土を広げること。いかに隣国を打ち負かし、土地を奪うか、だった。一方の信長は違い、新しい秩序や体制をつくろうとした。信長は「天下布武」を唱え、古い体制を壊し、新しい秩序を武力によって治めていくという姿勢が見て取れると、著者の大中氏は述べる。
その一例が、宗教の問題だ。信長は他者の信仰には基本的に口出ししなかったが、宗教を隠れ蓑にして世俗権力を握り、宗教の名の下に信者を戦いに駆り立てたり、私服を肥やしていた人たちを激しく嫌悪した。
信長が一向一揆を討ち、比叡山を焼いて宗教勢力を弱めていなければ、その後も宗教勢力が政治に干渉していたのではないかと著者は分析する。
時代の流れや大きな出来事で、社会は変化していく。ビジョンを描くことで、人を惹きつけ、自分自身も動ける。時代の変化に対応するためにも、これからの時代に必要なスキルなのだ。
戦国時代や幕末の出来事や人物のエピソードを一話完結で掲載しているので、興味のあるところから読める本書。歴史を学ぶことで、過去の失敗例から、どんな行動をすると失敗するかがわかる。先人たちの失敗は、私たちのこれからの人生や仕事の糧となるはずだ。
(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。