新型コロナウイルスが招いた危機的・災厄的状況のなかで、厳しい現実が多くの社長たちに突きつけられた。
そうでなくても、ビジネスのサイクルが速い時代である。社長は、主力商品を時代に合わせてシフトしたり、新たなビジネスモデルを模索する革新の繰り返しを求められていると言っていいだろう。
そのとき、自社の方向性を大きく変える革新的な意思決定が必要となる。しかしそれは、「民主主義」からは生まれない。
伝説的な経営コンサルタント・一倉定(いちくら さだむ)氏が社長に向けて実務遂行の秘訣を説いた、全10巻からなる「〈新装版〉一倉定の社長学シリーズ」がある。その第7巻、『社長の条件』(日本経営合理化協会出版局刊)に、このような一節があるのでご紹介しよう。
■「民主主義の経営」は失敗する
意思決定は次元が高くなるほど、下部のものの意見を取り入れることは避けなければならない。経営は民主主義ではない。民主主義をとったら、その会社は十中八九はつぶれる。多数決は衆愚につながるからだ。 すぐれた決定は、多数の人々の意見から出るのではなくて、すぐれた経営者の頭から生まれるのだ。(P 228)
一倉氏はこう述べて、重大な決定ほど社長一人で決断することの大切さを強調している。
社長の役割とは、ひとことで言えば「決定を下す人」である。特に、「勝ちパターン」が陳腐化しやすい現代では、その重要性が増している。革新的な決定は、危険であるだけでなく社内の抵抗や批判も多い。だから、社長は勇敢に、潜在する可能性に取り組んでいかなければならないのだ。危険を恐れてはならないのだ。
凡庸な社長は、危険を理由にして決断を避けようとする。幹部や人の意見を聞くなどという、一見すると民主的なことをしがちなのだ。
将来への可能性は、それが革新的であればあるほど、危険も大きい。危険を伴わない決定など、会社の将来に大した影響のない次元の低い決定なのだ。
たった一人で、会社の未来を左右する決断を下す。その孤独に、社長は向き合わねばならない、というのが一倉氏の考えだ。
■伝説的コンサルタントが語る「社長の社会的責任」とは?
もう一つ、一倉氏は
会社は絶対につぶしてはならない。いつ、いかなる場合にも利益をあげて存続させなければならない。これが経営者の最低限度の社会的責任である。そこに働く人々の生活を保障するという社会的責任がある。(P 221)
と説くと同時に「とにかく食っていければいい」「もうこれ以上大きくしない。小ぢんまりやるのが私の主義だ」という考えの社長には警鐘を鳴らしている。
経営者の使命感を土台にした未来像のないところに経営はなく、繁栄はない。 すぐれた企業は必ずすぐれた未来像をもっている。(P 222)
繁栄とは、社会がその会社を必要としている何よりの証拠なのだ。
ただし、未来像を描くうえでチェックしなくてはならないのは「今のわが社の業界の将来はどうか」ということだ。
もしも、斜陽化の兆候があるようなら、成長業界への転身を図らなければならない。早く兆候を発見し、早く転身しなければ手遅れになる。
長期的な将来を見通し、会社を誤りなく導くことが経営者の役割なのである。
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「〈新装版〉一倉定の社長学」シリーズの第7巻『社長の条件』では、社長に求められる資質や役割についての解説だけでなく、一倉氏が長いコンサルタント人生で出会った優れた経営者・優れた企業、そして人的な問題が起こりやすい組織の実例が集められており、「社長業とは何か」を確認できる。
「どんな経営者になりたいか」というビジョンは人それぞれ違うものだが、本書は「成功する経営者」の共通項を教えてくれる。これから起業する人にとっても、学びが多い一冊だろう。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。