5月に行われたフランス大統領選挙は、39歳のエマニュエル・マクロン氏が当選。その様子は日本でも大きくニュースで扱われた。
また、マクロン氏が15歳のとき、後に妻となる当時39歳の教師と出会い、その14年後に愛を実らせた大恋愛もクローズアップされたことは記憶に新しい。
そんなことでも話題になったフランスだが、文化や教育はどんなところが日本と違うのか。
そこで読んでおきたいのが『フランスの教育・子育てから学ぶ 人生に消しゴムを使わない生き方』(岩本麻奈著、日本経済新聞出版社刊)だ。
本書は、在仏20年、パリで3人の男の子を育てた皮膚科医の岩本麻奈氏が、教育無償化、少子化対策、グローバル人材育成など、日本が直面する喫緊の課題へのヒントともなる、フランスのエリート教育や子育てのエピソードを交えて紹介した一冊である。
■芸術の国フランスの芸術教育事情とは?
パリが「芸術の都」と呼ばれるように、フランス国民の芸術への関心や理解は深い。
日本の文化予算は予算総額の0.1%だが、フランスのそれは10倍の1.0%。
潤沢な予算を背景に、美術・演劇・映画・サーカスなどの各分野に多くの国立の学校や研究機関を設立し、国家戦略レベルで文化芸術の普及や啓発に努めている。国民の関心も理解も世界の国々ではトップクラスだ。
また、フランスでは、小学校や中学校の美術や音楽の授業に教科書は存在しないという。さらに、カリキュラムも教師の個人的裁量に委ねられているのだ。
芸術活動を学校に任せていないので、情操教育のほとんどは市町村などに地方自治体やボランティア団体などが担っている。
児童や生徒は生徒証の提示によって、美術館・博物館などの観覧施設はすべて無償で見学できる。フランスに行ったことがある人なら、美術館で彫像を前に座り込んでデッサンしている幼い子どもたちの集団を見かけたことがあるだろう。“ならでは”の光景といえる。
ただ、学校でもいくつかの改革は行われ、近頃は授業に芸術史を導入したり、芸術活動のワークショップなども行われているそうだ。
■授業では万年筆を使い、鉛筆と消しゴムを使わない?
他にも教育面で違う部分は多い。フランスの小学校では、大半の子どもが授業でノートをとる際に万年筆を使用する。そして、間違った場合、斜線を引いてその部分を抹消したこととする。
万年筆を使う理由は2つあるという。
まずは「間違ったことをなかったことにしないため」だ。フランスの教師は子どもそれぞれの歴史が表れているノートを手操りながら、その子が理解していく過程を見ている。日本の子どもたちのように消しゴムで消されて正解だけが書かれたノートではそのプロセスがわからない。教師は正解に辿り着くまでの間に発生した生徒の「気づき」の過程を知りたいのだ。
もう1つは、フランスらしい理由であるが「美しさ」だ。万年筆は美しい書体をつくる、最も優れた筆記具のひとつ。答案に美しさが求められるフランスの試験では、万年筆によって表された独特の美しさが採点されるという。字が汚いと減点。これは「正解のない問題に対応できる力」を鍛えるためでもある。
岩本氏が日仏の違いを目の当たりにして、真っ先に思いついた違いが教育であるという。どちらが優れているというのではなく、フランスの文化や教育を知ることで、日本にはないものや価値観の違いも見えてくるはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。