例えば、コレクターの父親が急に亡くなり、残された息子が茶器の価値も売買ルートもわからず、困ったあげくに大量にネットで投げ売りするケースも少なくない。つい先日も、「30万で売れる備前の器が2万円で出ていた」(A氏)という。
「とはいえ、95%は贋作(偽物)です。私もたまにですけど、騙されますから。7万で落札した器が千円以下の安物だったこともありました(苦笑)。非常に腕のいい贋作グループが京都にいるといわれていますけど、そこの品だったと思います」(同)
基本的にパソコン画面だけで真贋を見分けるため、手に取って質感を確かめることはできない。当然、『なんでも鑑定団』の古美術鑑定家の中島誠之助さんのように、皿をカーンと叩いて音を確かめることもできない。経験不足の売人は手が出せず、高齢者が多い骨董売人は総じてネットにうとい。つまり、日本の茶器業界は今、知識と経験豊富で、かつネットが使える一部の売人の独壇場となっているのだという。
「茶器で食えている人間は、今は全国でも20人以下。もっとも、あと5年もすればおじいちゃん売人だってネットを覚えて参入してくるだろうし、若い同業者も経験を積んで目が肥えてくる。そうなったら厳しいですね」(同)
いずれにせよ、素人が簡単に手を出せる世界でないことは確かだ。そんなA氏のここ数年の平均的な年収は、おおむね以下の通り。
ある年における古物商Aさんの年収
(金額はA氏の自己申告によるもの)
■茶器の売買 334万円(3つの教室合計)
■コンサル業
A教室 173万円(3回)
B教室 62万円(2回)
C教室 59万円(2回)
小計 294万円
合計 628万円
何十年もかけて目を鍛え、時には家族を犠牲にし、大金を騙される危険性と常に寄り添いながらこの年収。高いか安いかは個々の判断に委ねたい。
(文=編集部)