誰かをものすごく贔屓しているかと思えば、その陰で別の人に冷酷な仕打ちをしている。職場ではチームワークが大切なのに、集団への貢献を示さない。自分が「楽しめれば」それでいい。自分に対して邪魔する者はいかなる手段を使っても排除し、そして支配する。
「ソシオパス」という言葉を聞いたことがあるかもしれない。「反社会性パーソナリティ障害」とも言われる、いわば「良心をもたない人たち」のことだ。彼らはごく普通の人間としてこの社会に潜んでおり、“目には見えない”道徳上の罪を犯し、人間関係に破綻をもたらしながら生きている。
そしてソシオパスはあなたの最も身近な場所――例えば、働いている職場にもいるかもしれないのだ。
『良心をもたない人たちへの対処法』(マーサ・スタウト著、秋山勝翻訳、草思社刊)では、職場に潜むソシオパスの事例をあげながら、彼らの戦略や行動パターン、その対処法を説明している。その特徴を見ていこう。
1.親切で寛大なふりをする
彼らは職場の権力を得るため、真っ先に自分は親切でほかの誰よりも寛大な人間であるふりをする。例えば新入社員にはとても優しく接して第一印象を良くするといった具合だ。このような振る舞いは、ガスライティング効果(被害者に誤った情報を提示し、混乱や疑念を起こさせる)のお膳立てになることが多い。
2.他人の共感を得ようとする
寛大な仮面を見せたら、ソシオパスは「共感を得よう」と操作する。その時彼らは、「自分もまた誰かのせいでつらい思いをしている」と訴える。
3.精神的な弱点を見極める
ソシオパスたちは普段、私たちと同じ行動をとろうとしているので分かりにくい。一方、彼らからすれば「獲物」は丸見えだ。つけ込めそうな同僚や上司が抱えている精神的な弱点は何か見定めて、職場の人間に対して自分は必要な人間なのだと心の底から思わせるように仕向けていく。
人間の自己評価への欲求は、ソシオパスが最優先で攻めるポイントだと著者は述べる。嘘くさいほめ言葉、見え透いた嘘でも、被害者にとっては「救い」になる。そして、その関係は性的な関係に及ぶ場合が珍しくないという。
4.返報性の意識を強化する
寛大な人柄を演じて相手の精神的な隙につけ入るソシオパスは、自分の貸しに報いる感情を同僚や上司に植え付けていく。つまり、意図して問題を起こし「それを解決できるのは自分だけ」と振る舞い、そこから被害者を救い出すのである。自分の恩に報いる相手の感情を強化することで、自分に都合よく操るようになるのだ。
5.イエスマンしか雇わない
経営者がソシオパスの場合、自分への恩義に対して忠実であると容易に見込める人間を優先的に昇進させたり、採用したりすることも珍しくない。そのため、社長がソシオパスだと気づいていない他の社員が「なぜあんな人が採用されるのか」「どうして彼が昇進するのか」と首を傾げる事態を引き起こすことがある。
こうしてソシオパスはその職場の中での支配を深めていく。特に問題なのは著者が「閉鎖系」と呼ぶような、当事者しか知らない孤立した状況で関係が結ばれることがあるということだ。二人の関係が秘密であると、心理的虐待も人目に付きづらくなる。こうした状況はソシオパスの格好の餌食である。
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では、職場に潜んでいるかもしれないソシオパスから自分を守るにはどうすればいいのか。もちろん、本書にはそれについても解説している。対処法の1つをあげるとすると、ソシオパスに対して自分の素の心を見せないことが大切だ。つまり、心にプライバシーを守り続けることである。冷静を保ち、動揺があっても表現やしぐさに現れないようにする。そうすれば彼らは期待通りの結果が得られなくなる。
本書では職場のほかにも家庭や法廷、ネット上などのシーンにおけるソシオパスの振る舞いとその対処法をつづっている。著者は、「ソシオパスにも“良心のかけら”ぐらいはあるのでは」と期待する人々に対して「本質的に良心をもてない」と言い放つ。
身近なところに、ソシオパスはいるだろうか? また、もしかしたらもうソシオパスに目をつけられているかもしれない。どんなタイミングでも読んでおいて損はないはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。