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皇位継承のあり方有識者会議メンバー・中江有里の正体…アイドル冬の時代が生んだ怪物

文=峯岸あゆみ
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「安定的な皇位継承策」などを検討する有識者会議のメンバーのひとり、中江有里(47歳)。プロフィールには「女優・作家・歌手」とあるが、コメンテーターの印象も強い。稀有なキャリアの持ち主である中江は、いかにして現在の地位を確立したのだろうか? (画像は中江有里公式サイトより)

「アイドル冬の時代」と呼ばれる時期があった。一般的には、女性アイドル、特にその歌手活動に対するニーズが大きく低下した、1980年代末期から90年代半ばまでを指す。

 その時代にデビューしたアイドルのなかに、去る3月23日に初会合が開催された、「安定的な皇位継承策」などを検討する有識者会議のメンバーがいる。現在は「女優・作家・歌手」を名乗る、中江有里(47歳)である。

 同会議は中江のほかに、大橋真由美(46歳/上智大学法学部教授)、清家篤(66歳/日本私立学校振興・共済事業団理事長)、冨田哲郎(69歳/JR東日本会長)、細谷雄一(49歳/慶應義塾大学法学部教授)、宮崎緑(63歳/千葉商科大学国際教養学部教授)の計6名によって構成される。加藤勝信官房長官はその人選について、「高い識見を有する方に、さまざまな分野から集まってもらった」と語っている。

 アイドルから、皇室問題について検討する有識者へ──稀有なキャリアの持ち主である中江は、芸能界でどのようなキャリアを重ね、いかにして現在の地位を確立したのだろうか?

Wink、和久井映見と同じ雑誌『アップトゥボーイ』出身…牧瀬里穂、観月ありさと同期デビューも歌手活動は不発

  中江有里の芸能界デビューは、1989年(元号でいえば平成元年)に「ミス・アップNo.16」に選ばれたことがきっかけであった。「ミス・アップ」というのは、現在も刊行されているアイドルグラビア誌「UP to boy(アップトゥボーイ)」(ワニブックス)によるアイドルオーディションの合格者に与えられる称号で、中江より以前には、Winkの鈴木早智子と相田翔子や、現在はNHK大河ドラマ『青天を衝け』に出演中の和久井映見らを輩出している。

「UP to boy」のグラビアで大々的にプッシュされた中江は、17歳だった1991年10月に、飛鳥涼(のちのASKA)が手がけた「花をください」という楽曲でCDデビューを果たした(レーベルはBMGビクター)。

 だが、当時は「アイドル冬の時代」真っ只中である。中江に限らず、中嶋美智代、高山美図記、井上晴美、中條かな子ら91年組の女性アイドルたちのほとんどが、後世に歌い継がれるヒット曲を残すことはできなかった。例外的な成功者として観月ありさがいる程度である。高い人気を誇った牧瀬里穂もこの年にCDデビューしたものの、早々に歌手業からは撤退している。

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中江有里が1992年に主演したドラマ『綺麗になりたい』(日本テレビ系)のコレクターズDVDジャケット(TCエンタテインメントより発売)

初主演作は世の中が飽きていた“犬の映画”…最悪の公開タイミングで不発に終わる

 歌手としては今ひとつだった中江有里だが、すぐに女優として大きなチャンスをつかむ。失語症の女性と犬の交流を描いた東宝創立60周年記念作品『奇跡の山 さよなら、名犬平治』の主演に抜擢されたのだ。

 しかし、1992年4月に公開されたこの映画は、企画として遅きに失した感があった。というのも、80年代後半の日本映画界は、犬、猫、馬、象、鹿、パンダ、ラッコ、ペンギンとさまざまな動物をモチーフとした映画を量産していたため、さすがに柳の下のドジョウもいなくなっていたのである。『ハチ公物語』(1987年、松竹富士)など特に犬の映画が多かったこともあり、後発中の後発だった『奇跡の山 さよなら、名犬平治』は、「東宝創立60周年記念作品」にしては残念な興行成績に終わる。そればかりか、現在に至るまで1度もDVD化されず、再評価される機会すら逸している。

 それでも、当時の中江が若手女優として期待されていたのは間違いなく、同年10月より次なる主演作、連続ドラマ『綺麗になりたい』(日本テレビ系)が用意される。しかし、この作品も特に話題作とはならなかった。

ポッキーCMで牧瀬里穂らと豪華共演…2作目の主演ドラマもヒット作とはならず

 若き日の中江の芸能活動でもっとも多くの人々の記憶に残っているのが、1993年から2年ほど出演した江崎グリコ「ポッキー」のCMではないだろうか? これは、「ポッキー四姉妹物語」というドラマ形式CMのシリーズで、長女=清水美砂、次女=牧瀬里穂、三女=中江、四女=今村雅美(第5回全日本国民的美少女コンテストグラプリ受賞者)の4名が出演していた。1995年には『四姉妹物語』のタイトルで、CMと同じキャストによる映画が公開されている。

 またポッキーCM出演中の1994年には、中江にとって2作目となる主演連続ドラマ『白の条件』(フジテレビ系)が放送されるが、こちらも視聴率は不振だった。

連続テレビ小説ヒロインだったが途中離脱…女優活動は助演、ゲスト出演が中心に

 なかなかヒット作に恵まれないものの、着実に演技経験を重ねた中江は、またもやビッグチャンスを得る。1995年後期のNHK連続テレビ小説『走らんか!』へのレギュラー出演である。これは、三国一夫という俳優が演じた男性が主人公の作品で、中江と菅野美穂がダブルヒロインとしてキャスティングされた。

 ところが、『走らんか!』も当たらなかった。平均視聴率は20.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、90年代中期のNHKの朝ドラ作品としてはワースト級に低迷する。

 しかも、脚本上、中江が演じた人物は海外に留学する設定だったため、実質、途中で番組から姿を消してしまい、菅野との出番に大きく差があった。 結局『走らんか!』以後の中江は、連続ドラマに主演することがなくなり、ゲスト出演、助演が女優業のメインに。それは、翌年の主演作『イグアナの娘』(テレビ朝日系)以降、徐々に主演級にランクアップを果たした菅野とは対照的ともいえた。

 しかし、中江はその一方で、違った方向への道を切り拓いていくのだった。

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2021年1月27日には、なんと28年ぶりにアルバムを発売。写真は、中江有里3rdアルバム『Port de voix(ポールドヴォア)』(ユーキャン)のジャケット。

連続ドラマ主演は2作品で途切れるが突然、報道番組のサブ司会者に起用される

 1997年10月、中江有里にとってキャリアの転機ともいえる仕事がスタートする。日曜朝の報道番組『サンデーモーニング』(TBS系/当時は『新サンデーモーニング』)へのレギュラー出演だ。当時23歳の中江がサブ司会のような扱いで起用され、関口宏の隣に座るようになったのだ。

 1987年開始という長い歴史を誇る同番組は、TBSのアナウンサーではない女性キャスターがサブキャスターを務めることがほとんどだが、中江のポジションは、それとも異なり、番組史上ほかに例がない独自のものだった。

 当時の中江は、公に執筆活動を開始しておらず、もちろん「有識者」という評価を得るよりもはるか以前。かなり唐突で不思議な印象のキャスティングだったが、彼女は与えられた役割をそつなく果たした。生放送、しかもジャーナリストや学者、専門家がズラリと並ぶ環境で、社会のシリアスな出来事に対する自らの考えを口にすることもあった。それは、今日の活動の原点だと見ることもできる。

ラジオドラマの脚本がNHKで賞を受賞…2010年代は超売れっ子文化人に

『サンデーモーニング』出演は11カ月と短かったが、それから数年を経て、中江にまた転機が訪れる。きっかけとなったのは、出演する予定だった映画の企画が頓挫したことだったという。大の読書家で文章を描くことが好きだった中江は、予定外のスケジュール空白期間を利用して、ラジオドラマの脚本執筆に挑戦する。そして、完成した作品『納豆ウドン』が、2002年にNHK大阪放送局主催「BKラジオドラマ脚本懸賞」で入選を果たすのだ。

 以後、文筆の分野で中江の名声は徐々に高まっていく。雑誌や新聞へのエッセイの寄稿を始め、2006年に初の小説『結婚写真』(小学館)を刊行。また、主に短編ドラマの脚本を手掛けるようになる。他方、2004年から書評番組『週刊ブックレビュー』(NHK衛星第2テレビ)にレギュラー出演することで、読書家ぶり、博識ぶりが広く知られることになる。そこから、書評や書籍の解説などの仕事が次々に生まれていく。

 その後、法政大学通信教育部文学部で日本文学を本格的に学び、同学在学中には2作目の小説『ティンホイッスル』(角川書店)を発表。2010年代になるとコメンテーターとしてのテレビ出演、講演会の開催やシンポジウムへの参加が増えていった。さらに、そうした活動への評価からか、2010年代後半にはさまざまな組織や団体の委員、理事の類への就任依頼が相次ぐ。彼女が歴任したのは下記の通りである。

▶TBSテレビ番組審議会委員
▶公益財団法人 ブルーシー・アンド・グリーンランド財団理事
▶産経新聞報道検証委員
▶放送大学放送番組委員会委員
▶公益社団法人日本文藝家協会評議委員
▶天理大学客員教授
▶一般財団法人 社会変革推進機構評議員
▶文化庁文化審議会委員

 中江が、歴代アイドルが未踏の領域に達しているのは明らかだ。その評価は、高い向学心、長い時間をかけた学究や、思考力の研鑽に立脚したものだろう。 

 テレビのコメンテーターとしては「無難なことしか言わない」といった声も一部にあるが、たとえば産経新聞報道検証委員としては、同紙の報道姿勢について辛辣な意見を堂々と述べたこともある。それは、付け焼刃でできることではない。

 しかし、驚くべきなのは中江が近年、歌手活動を再開させていることだ。2020年、コロナ禍が深刻化する直前にライブを開催し、配信シングルや配信アルバムをリリース。2021年3月にも配信ライブを行ったばかりだ。有識者として官邸からお墨付きをもらう立場となっても、彼女の原点はアイドルなのである。

峯岸あゆみ/ライター

峯岸あゆみ/ライター

CSと配信とYouTubeで過去のテレビドラマや映画やアイドルを観まくるライター。ベストドラマは『白線流し』(フジテレビ系)、ベスト映画は『ロックよ、静かに流れよ』(1988年、監督:長崎俊一)、ベストアイドルは2001年の松浦亜弥。

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