オードリー若林がキューバ一人旅で見つけた、本当の人間の姿

※画像:『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』(若林正恭著、KADOKAWA刊)

 2016年、マネジャーから「今年の夏休みが5日取れそうです」と聞いたお笑いコンビ・オードリーの若林正恭さん。念願だったキューバ旅行へ行くことを決意する。それも、ツアーでもなく、ひとり旅で。

 そんなキューバひとり旅をつづったエッセイが、『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』(若林正恭著、KADOKAWA刊)だ。

なぜ、急にキューバなのか。この頃、若林さんは東大の大学院生の家庭教師を雇い、ニュースを解説してもらったり、疑問に答えてもらっていた。

 そこで初めて知った言葉が「新自由主義」。スペック、超富裕層、格差、不寛容社会……若林さんが感じていたこういった違和感は、新自由主義という人間が作ったシステムの中での悩みに過ぎなかったことに気づく。

 そして、自著『完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込』を本棚から取り出し、「おい、お前の悩みは全部人が作ったシステムの中でのことだったぞ。残念だったな!」(33ページより)と言葉をかけた後、ひとつの儀式としてゴミ箱に捨てる。

 このシステム以外の国をこの目で見てみないと気がすまない。そういう思いから、経験したことのないシステムの中で生きている人たち、陽気な国民性と言われているキューバへ行くことになったのだ。

 無事、キューバに降り立った若林さん。キューバ人のガイドと二人きりで観光するのも人生初だった。ラジオでは人見知りではなくなってきたと話していたけれど、まだまだ人見知りの若林さん。キューバ人の陽気なテンションに「絶対についていこう!」と心に決め、待ち合わせのロビーへ。ガイドのマルチネスは、なんと人見知りだった。

 キューバを旅した若林さんは、何を思ったのだろうか。

 たとえば、革命博物館を訪れても涙も流さなかったし、今の生き方も変えるつもりにもならなかったという。だが、「ぼくはきっと命を『延ばしている』人間の目をしていて、ゲバラやカストロ、革命軍の兵士たちは命を「使っている目」をしていた」という感想を抱く。

 革命広場でカストロの演説に想いを馳せ、闘鶏場を見学し、カリブ海で海水浴。モヒートを飲み、葉巻を吸う。ホテルに帰ると、周辺を散策したり、ホテルのテラスでぼーっとしたりを繰り返す。

 キューバで若林さんが気付いたことが、新自由主義に競争させられなくても、元々人間は競争したい生き物なのかもしれないということだったそうだ。

 若林さん自身は、「めんどうくさいから、中の上でいいんだよ」という考えだ。度を越した贅沢はしなくていいし、度を越した努力もしたくない。とはいえ、エアコンがない家は辛い。それを叶えたいならば、今の日本では死ぬほど努力しないといけないということ。

 そんなことを若林さんは、ホテルのバーでマンゴーを食べながら、葉巻をふかして考えていた。

 『完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込』から約4年ぶりの本書。オードリーファン、リトルトゥース(『オードリーのオールナイトニッポン』リスナーの呼び名)はもちろん、そうでない人も、読み物として楽しめる一冊である。
(新刊JP編集部 T・N)

※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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