近年、「お寺ごはん」が静かなブーム。ここ数年、複数の出版社から、お寺ごはんをテーマにした書籍や漫画の発刊が相次ぎ、2017年にはテレビドラマにもなりました。東京・代官山には「寺カフェ」があり、多くの女性客でにぎわっています。
でも、「お寺ごはん」とはそもそも何でしょうか。なぜ、人気なのでしょうか。
2018年2月に刊行された『心のごちそう帖 お寺ごはん』(アスコム刊)の著者で、東京都豊島区で約500年続く名刹・金剛院の第33代目住職、野々部利弘さんによると、お寺ごはんの定義は4つあるといいます。
五感をひらいて食べる
今日食べたランチの食感を、覚えているでしょうか?
人間は意識しないと、その感覚を記憶することすらできません。逆に感じながら食べれば、おいしさだけでなく「モチモチしている」「ひんやり冷たい」などの小さな発見があります。忙しい毎日のなかで閉ざされた感覚を取り戻すことを「五感をひらく」といいます。その積み重ねが、心豊かな毎日につながります。
引き算のレシピ
腹6分目を心がけ、塩分、糖分、油分は控えめ。作り方も手が込んでおらず、華美な料理もありません。
「まあるい食材」を使い、「とんがり食材」は避ける
「まあるい食材」とは、お野菜やお豆腐といった体に優しい食材。「とんがり食材」とは、香辛料やにんにくといった刺激の強いもので、お寺ごはんではできるだけ使わないほうがいいでしょう。
手ばかり、指ばかり、いいあんばい
一般的なレシピは、大さじ、小さじといった分量が決まっています。もちろん料理の基本は大事です。ただし、お寺ごはんはマニュアルに囚われず、自分の好みや体調に合わせて、自分にとっての「いいあんばい」で料理することを重視しています。
大事なのは自分の感性。そのため、食材や調味料も手や指をつかって、感覚で計ることをおススメしています。
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いかがですか。気になるのは精進料理との違いですが、お寺ごはんでは、推奨こそしないものの、お肉やお魚は使っていいとのこと。
大事なのは心身のバランスと調和。体力が落ちているなら、お肉を食べた方がいいでしょうし、熱い時期には特別に、発汗作用がある香辛料を使ってもかまいません。精進料理に比べると、かなりハードルが低く、手軽に作れるのは嬉しいですね。
野々部さんは、食事が私たちの体だけでなく、心の安定にも影響を与えると考えています。お寺ごはんは、食べること、感じることで心が落ち着く食事です。
現代の人々は、SNSなどから一方的に流入する情報に振り回され、他人の生活が覗けることでかえって不安や焦りを感じやすくなっています。そんな、ストレスフルな毎日の中で、せめて「食」に癒しを求める人が増えている。お寺ごはん人気の背景には、そんな現代人特有の心の問題があるのかもしれません。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。