日本企業が世界におけるビジネスのイニシアチブを担えなくなった理由は何か。大きな要因のひとつには、技術やモノづくりに偏重しすぎるあまり「イノベーション」が起こせないことが挙げられるだろう。
ビジネスの動きが加速、複雑化する現代では、イノベーションを起こせる人材の育成は不可欠であり、急務の課題とも言える。それも、企業の中でミドル層に位置しながら、幾度もイノベーションを起こせる人材が求められる。
そんな継続的に革新を起こせる人物の特性を明らかにし、そのような特異な人物をマネジメントするポイントを教えてくれる一冊が『シリアル・イノベーター 「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀』(アビー・グリフィン、レイモンド・L・プライス、ブルース・A・ボジャック著、市川文子、田村大監訳、東方雅美訳、プレジデント社刊)だ。
では、幾度もイノベーションを起こし、企業の利益に貢献する「シリアル・イノベーター」とはどんな人物像なのか。その姿を本書からかいつまんで紹介しよう。
莫大な利益を生み出す「シリアル・イノベーター」
イノベーションには、大きく分けて二種類ある。
「段階的イノベーション」と「ブレークスルー・イノベーション」だ。前者は、既存の製品、事業の延長線上にあり、段階的に性能の向上や変化などによって改善を施していくもの。一方、後者は、前例がなく市場に競合が存在しない製品、事業を創造していくものだ。
「シリアル・イノベーター」は、後者のイノベーションに取り組み、莫大な利益を生み出す存在だ。
本書では、革新的な製品が生み出されるためには、「技術開発者」「チャンピオン(事業やマーケティングに優れた人物)」「製品開発担当者」という3つの段階があり、それぞれ異なるスキルが求められるとしている。しかし、シリアル・イノベーターは、この三者のスキルを併せ持つ。
また、その過程において革新を起こすシリアル・イノベーターは、既存路線や従来のやり方を進める上司やマネジャーから煙たがられることもある。そうした場合の「社内政治の駆け引き」にも長けていることも特徴の一つだ。
シリアル・イノベーターは、顧客のニーズを把握し、研究開発を牽引し、市場を調べ上げ、遂行段階においては自らプロジェクトを指揮する。このような人物は、一企業の技術専門スタッフ50~200人に一人程度しかいないという。
だが、これだけのことができる人物を発掘、育成することができれば、企業にとっては金の鉱脈を掘り当てるに等しい成果を上げることができるだろう。
「シリアル・イノベーター」の特性とは?
そんなシリアル・イノベーターには固有の特性があると著者は指摘する。
まず、「パーソナリティ」として、斬新な技術やプロセスを想像する「好奇心」「直感」「想像力」「システム思考」、長期のプロジェクトを遂行できる「自立心」「自信」「リスクの選択能力」「忍耐力」といった性格や性質を持つ。
次に、「パースペクティブ(ものの見方)」として、「顧客や企業、チームといった関係者全員に共通する価値を尊重し、自分自身よりも優先」「技術はあくまでも事業成功のための手段」「複数事象の関係性を見出し、システム全体を通してシンプルに書き換え、目に見える結果を追求」といった姿勢でプロジェクトに臨む。
そして、「モチベーション」として、新しいものを創造することで人々の暮らしをよくしたいという「内発的報酬」の存在。
この3つの要素が、シリアル・イノベーターを形成しているという。
多大な功績を上げる可能性があるシリアル・イノベーターだが、イノベーション・プロセスの初期段階では傍目からは長い間、何も行われていないように見えたり、官僚的な仕事を嫌う傾向があったりするなど、クセが強いことが示唆されている。
それ故に、マネジメントする側の人間は、細かく管理しようとしたり、リソースを出し惜しんだりせずに、フレキシブルに対応することが必要だと著者は説く。本書は、イノベーションを現場レベルで実現するための大きな助けとなるはずだ。
(ライター/大村佑介)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。