コミュニケーションは難しいもの。何を言っていいのか分からない、怒らせてしまったらどうしよう…という思いから、言いたいことを口に出せず悩んでいる人も多いだろう。
しかし、ビジネスにおいてコミュニケーションは身に付けるべき基礎的なスキルだ。
例えば、エン・ジャパンが転職コンサルタントに対して行った調査よれば、ミドルクラス(35歳以上)が転職後、管理職に出世できなかった人に共通する人柄のトップにあげられていたのが「コミュニケーション能力が低い」という回答だったという。(*1)
では、コミュニケーションはなぜ大事なのだろうか。
共栄大学国際経営学部教授の平林信隆氏は、著書『実践ビジネス・コミュニケーション』(創成社刊)の中で、「コミュニケーション能力は対話力である」と定義し、「営業職も技術職も、一人で仕事が簡潔することはありえない」という根本を指摘し、時に意見が違う相手の協力を得て仕事を進めていかなければいけないと述べる。
そんな平林氏は本書で、「コミュニケーションは勉強をすればスキルを身に付けることができる」ということを提示する。実際、本の中では座学とともに「演習」部分を通して実践的にノウハウを学ぶことができる。
ここでは、「コミュニケーションが苦手」という人にもできるコミュニケーションの方法を紹介しよう。
■コミュニケーションは「話す力」よりも「聴く力」から始まる
近年、「聴く力」いわゆる、「傾聴力」がコミュニケーションにおいて重要視されている。
本書でも、コミュニケーションは相手の話を聞くことから始まると述べられている。
たとえ同意できないことであっても、相手の意見を理解することはできるはず。理解するスタンスで相手の目を見て、うなずき、あいづちをうつ。それだけで相手は自分に心を寄せてくれるのだ。
ただ、あいづちはバリエーションがあったほうがいいだろう。同じあいづちばかりしていると、「理解してないんじゃないか」と疑われる。本書ではあいづちの基本の「さしすせそ」をピックアップしている。
さ…さすが
し…実力ですね、しらなかった
す…すごい
せ…絶対、センスいいですね
そ…そうですよね、それで
これらの肯定的なあいづちを使って、自分の印象を高めながら、相手から話を引き出していくのだ。
また、相手のしぐさや口調を合わせる方法もある。いわゆる「マッチング&ミラーリング」というものだ。人間は、「自分と同じ」と思うと、好意や親近感、安心感を覚えるという。 また、バックトラッキングという、「相手の使った言葉を反復する」「相手の話を要約する」という方法も信頼を高める手段の一つだ。
■相手の想いを言葉にして振り返る「反映的傾聴法」
ここまで説明してきたのが「積極的傾聴法」だが、もう一つ傾聴法がある。「反映的傾聴法(リフレクティブ・リスニング)」だ。
これは相手が話し、感じたことをくみ取りながら、共感を言葉で「繰り返す」ことで、相手が自分の考えや気持ちを振り返り、整理するように促す方法だ。
例えば、「試験に落ちちゃったの」という相手のコメントに対して、あなたは「残念だね」「くやしそうだね」などの言葉で共感を示す。相手は悲しさ、落胆、悔しさなどを感じているだろう。その気持ちをくみ取ってあなたが言葉にするのだ。
ここでの演習では、次のような設問が出てくる。ぜひ試してみてほしい。
飲食店で接客を担当している後輩が、閉店するなり、こう話し始めました。
「今日、接客した客の文句がすごくて心が折れちゃったよ。この先やっていけるかな。」
あなたはこの後輩に、どんな言葉がけをしますか?
(p.22より引用)
どんな答えが浮かんだだろうか? もちろん決まった正解はない。隣のデスクの同僚と答えを言い合ってみるのもいいかもしれない。
◇
本書はビジネス・コミュニケーションの実践的テキスト。ラポール(信頼関係)やコーチング、敬語などの17の基礎編と、電話応対や面談、交渉などの10の応用編からコミュニケーションを学んでいく。
ハーバード・ビジネス・スクールの研究によれば、ハーバードを卒業した学生を追跡調査し、対人関係を築くコミュニケーション能力のある人とそうでない人の違いを比較したところ、コミュニケーション能力がある人はない人の1.85倍の年収を得ていたという。
若いうちから身に付けておくべきという意味で、大学生や新社会人はこの能力は必須だが、中堅やベテランも学ぶべき点は数多くある。社内やチーム内でコミュニケーションの研修をしようと考えているリーダーはおおいに参考になるだろう。
(新刊JP編集部)
【参照サイト】
*1…「出世する人、しない人」調査出世の分かれ目は、「コミュニケーション能力」と「問題解決能力」―『ミドルの転職』コンサルタントアンケート集計結果―(4月23日確認)
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2015/3149.html
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。