PASONAの法則は間違っていた―――。
マーケッターならば誰もが知っているセールスメッセージモデル「PASONAの法則」。実はこの法則は、顧客流出の原因になっていた。そう聞いて、誰もが耳を疑うだろう。しかし、実際そうなのである。
サブスクリプション・エコノミーの時代において、契約の更新や値上げ、アップセルはビジネス拡大において必要不可欠な要素だ。また、こちらに非があったときの謝罪は一歩間違えれば契約解除どころか炎上リスクもある。
では、こうした場面において、営業担当者はどんなメッセージを発するべきか。
『ストックセールス 顧客が雪だるま式に増えていく最強のフレームワーク「4つのメッセージモデル」』(エリック・ピーターソン、ティム・リーステラー著、神田昌典、リブ・コンサルティング監修、福井久美子翻訳、実業之日本社刊)にその答えが書かれている。
今回は監修者の神田昌典氏と権田和士氏(リブ・コンサルティング)が、新たなメッセージモデルを身につけることの重要性について対談を行った。今回はその後編である。
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。
■「この本を手に取った人が総取りになる」その理由とは?
権田:ここまでの神田さんのお話を聞いていて、これまでの営業と顧客の関係は2つだけだったように思いました。男女関係の例になりますけど、刺激ばかりのなかなか落ち着かないカップルと、ダラダラと関係を続けちゃうカップル。この2つだけだったのだと。
スタートアップはチャレンジャーですから常に顧客に新しい刺激を与え続けようとしますし、大企業を中心とした顧客と関係性ができている企業は、現状維持の関係を続けていて、何かあったら謝罪をして、値上げをして、というような。
でも実は関係はその2つだけではなくて、状況に応じて新しいメッセージモデルを使い分けていくことが大事だということが伝わっていくと良いかなと。
神田:その2つの関係のみにフォーカスされていた理由は、組織に内在するメカニズムである「現状維持バイアス」という切り口が提示されていなかったからだと思います。だからメッセージを使い分けることができていなかった。その使い分けができるようになるのが、この本で提示されているメッセージモデルなんです。
ですので、極端な話をすると、結局この本を手に取った人が勝つのだと思います。実は今、AIによってセールスがいらなくなるというところまで来ています。そのくらい技術は進んでいる中で、私たち人間が力を発揮できる仕事って何になるのかと言うと、「提案」なんですね。データを使いつつ、さらに良い提案をするのは人間しかできない。
ただ、その「良い提案」は、相手顧客の状況に応じてその場でメッセージを組み替えられるような天才的な営業マンしかできないことでした。この本では、そうした提案のモデルを示しています。その点で、読んだ人が総取りになるのだと思うのですね。
権田:今の日本の組織、もっと言えば日本全体が現状維持バイアスで固められていますよね。これを壊そうとして、スタートアップやチャレンジャーたちが攻撃を仕掛けてイノベーションを起こそうとしていくわけですけど、イノベーションによる「破壊」だけではその先に何も残らないし、破壊によって生まれた様々な分断を乗り越えられません。イノベーションによる変化を一度落ち着かせるというプロセスが必要なのだなと受け止めました。一度落ち着かせてアップグレードして質を高めていってからまたアップデートしていくといったアップデートとアップグレードを組み合わせることで、分断を克服しながらイノベーションが世の中に広がっていくんだなと、神田さんのお話を聞いて思いました。
これは組織についても同じで、たとえばDXを推進して組織を変えようという流れがあったとしても、「DX推進」という変化が落ち着かないうちにさらに新しい変化を加えても、組織内で「DXについていける人」と「DXについていけない人」の分断のうえにまた新しい分断ができるだけなので、変化を生み出したら一旦落ち着かせてアップグレードするというフェーズがあるべきだと思います。
■リーダーこそ『ストックセールス』を読むべき理由
編集部:本書のメッセージモデルにおいて、具体的にこのモデル通りにやって良かったという事例はありますか?
権田:私としては「あとがき」の最初のところに書いたエピソードがまさにそれですね。統括部署のコンサルタントから支援の契約更新が難航していると報告がありました。そこでこの本を参考にして「現状維持を促すメッセージモデル」への転換を促しました。その結果コンペに勝つことができ、継続をご決断いただきました。
神田:僕はやはり謝罪のメッセージモデルですね。とある方とのミーティングで怒られた際に、普通なら「これで怒られるなんて理不尽だ」と怒ったり、「どうしてこんな失敗をしてしまったんだろう」と自分を責めたりしてしまうところですが、このメッセージモデルがあることを知っていたので、怒りも自責もなく、むしろこの通りにメッセージを出したらどうなるのだろうと逆にワクワクしていました(笑)。
実際このメッセージモデルに従って謝罪文をつくって送ったところ、その関係はこれまで以上に発展しました。謝罪はメンタル的にもつらいものがありますが、追い込まれたときにも使えるモデルなのです。
そして、この「使える」という感覚をたくさんの人が持つことで、責任を取れるリーダーが増えると思ったんですよね。どのように謝っていいのか分からず、謝罪から逃げようとする人もいますが、こちらが失敗したのですから、謝罪をきちんとした方がいいわけです。そしてその結果、むしろ顧客との関係性も深まっていくのです。
謝罪が上手くいく体験をすれば、失敗に対する意識も変わります。組織のリーダーとして自分がどんどん決断できるようになると思うんですね。そういう意味で、僕は謝罪のメッセージモデルを使ったときに、これは責任を取れるリーダーが増えるなと思いましたね。
編集部:まさに先ほどお話されていた「政治家こそ、このメッセージモデルを知っておく必要がある」という言葉に通じます。
神田:今は真正面から責任を取れるリーダーが減っているように思いますよね。そういう人たちが増えるのはいいことです。
また、営業マンのプレゼンテーションはほとんどコピペ化していて、そのコピペの元になっている事例が、現状維持バイアスも何も考えられていないような提案なので、言葉が空虚にならざるを得ないんですよね。
このプロジェクトがどういう思いでスタートしたのか。あなたの会社はこのプロジェクトを始める時にこれだけの努力を払った。そしてそれは間違っていなかった……。こういう話をされているプレゼンテーションはほぼありません。とすると、今の営業マンたちは、目的を正しく達せられる商談の型を見たことがないわけです。それだとプレゼンテーションは成功できませんよね。
こうなると人が育たない。責任の取り方も、顧客との関係性を築く姿も見せられないのだからわからなくて当然です。だからこそ、この本を読んだ人の総取りになるわけです。それを見せるためのメッセージモデルが書かれているのですから。
編集部:この『ストックセールス』を読むべき人はどんな人だと思いますか?
神田:今の日本のリーダーと、その側近にはぜひ読んでほしいですよね(笑)。オリンピック開催をめぐる一連のごたごたも、原因の一つはメッセージの伝え方に問題があったことです。このメッセージモデルに沿ってきちんと伝えれば、ここまで国民が右往左往されることはなかったと思います。
海外の首脳はスピーチライターがついているものですが、今の日本のリーダーたちにはついていないんでしょうか。
権田:確かにこのメッセージモデルはスピーチの原稿にも使えますよね。
神田:日本のリーダーが言葉を持てていないのは、このメッセージモデル、コミュニケーションモデルを持てていないからなのかもしれない。
それはなぜかというと教育の問題だと思います。今の教育では、表現力を教えられていないのです。国語で読解力しか教えない教育をしているために、こうなってしまっているように思います。でも、読解力って何のための力ですか? それって指示を正しく理解するための力ですよね。
だから、僕たちは指示を正しく理解するための現状維持バイアスばかりが強化されていて、現状維持を何とかしようという表現力を一切日本の教育で教えられていないんです。これは非常に由々しき問題です。
権田:表現力の欠如を補うために、表現のパターンをメッセージモデルでインプットするというのはたしかに効果的です。本書のメッセージモデルが表現力の欠如というギャップを解消し、営業の勝ちパターンを構築するきっかけになるといいですね。
(了)
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。