ジャズとクラシックの不思議な関係
話が変わりますが、10年くらい前に、アメリカの研究所がある興味深い研究発表をした記事を読みました。どの新聞の記事か記憶は定かではありませんが、研究内容は「音楽の趣向と脳の関係」でした。人間の脳のある部分が、好きな音楽を聴くと強く反応するらしく、彼らはこういう実験をしました。
まずは、音楽の趣向が違う人たちをたくさん集め、クラシック音楽を聴かせてみます。そうすると、強く電気反応が出る人もいれば、ほとんど出ない人もいる。つまり、反応が出る人は、簡単に言うと、楽しんでいるというわけです。次に、ロック音楽を聴かせてみます。すると、ロック好きの人には反応が出るけれど、クラシック好きの人では反応がほとんど出なかったそうです。フォーク音楽を聴かせても同じでした。つまり、自分の好きなジャンルの音楽には反応が出るけれども、ほかの音楽ではほとんど出なかったそうです。
なかには、「私はクラシックとロックも両方大好きです」という方もいるかもしれませんが、あくまでもアメリカの研究所の発表だとご理解ください。
さて、そこで今回の記事の主役のジャズはどうでしょうか。それが不思議なことに、クラシック好きの人にジャズを聴かせても、ジャズ好きの人にクラシックを聴かせても、脳波は強く反応を示しました。
そこでハタと思い出しました。ある程度年齢を重ねてからクラシック音楽を聴くようになってきた方々から、「僕はもともとジャズが好きなんです」と伺うことが多いのです。
僕もジャズを聴くことが多いのですが、ドイツのベートーヴェン、ロシアのチャイコフスキー、フランスのラヴェルのような、スタイルの違う作曲家を一様に大好きなのと同じく、アメリカのジャズも楽しんでいるのかもしれません。
さて、最後にもうひとつ。20世紀になってジャズが発展してくると同時に、特にフランスではジャズが多くの作曲家たちに影響を与えました。ミヨーのようにジャズにすっかりはまってしまった作曲家もいますが、なかにはフランスの大家、ラヴェルもいました。ある日、彼のパリの自宅にガーシュウィンが訪ねて来ました。ガーシュウィンは、以前から尊敬するラヴェルに「作曲を教えてほしい」と、わざわざアメリカから懇願しにやって来たのでした。そこでラヴェルは、「あなたは既に一流のガーシュウィンなのだから、二流のラヴェルになる必要はないでしょう」と答えました。
結局、ガーシュウィンはラヴェルに習うことはできませんでしたが、ガーシュウィンとラヴェルが同じ音楽仲間としてお互いを認め合っていたことが、僕の心に留まります。
さて、ジャズ好きの皆さんも、ぜひクラシックを楽しんでください。また、ロック好きの方も、フォーク、演歌、レゲエ好きの方々も、オーケストラはまた違う世界を見せてくれますし、これまで以上に脳が反応するかもしれませんよ。年齢によっても、脳はドンドン変わっていくわけですから。
(文=篠崎靖男/指揮者)