IT技術の発達は私たちの仕事の仕方を大きく変えた。それは「会いに行って話をする」というフィールドセールスがマストだと思われていた営業の仕事も同じである。
特に近年、フィールドセールスに対する拒絶感を訴える声をインターネットで見かけることが多くなった。業務時間の短縮化が進むなかで、わざわざ時間を設けて会って話をしようとする営業マンに構っている時間がないというのも事実だろう。
そんな中で、企業はインサイドセールス――主にBtoBのシーンにおいて、電話やメールといった手段を使ってコミュニケーションを図る営業手法への変化が求められている。
グローバルインサイト合同会社代表で、これまで20年以上外資系企業を中心にインサイドセールスの立ち上げや運営に携わってきた水嶋玲以仁氏が執筆した『インサイドセールス 究極の営業術 最小の労力で、ズバ抜けて成果を出す営業組織に変わる』(ダイヤモンド社刊)は、限界を迎えている営業組織に変革をもたらす一冊かもしれない。
本書はタイトルの通り、インサイドセールスの手法を豊富な事例を通して説明しながら、最先端の組織運営の形を教えてくれる。これまでの営業観にどっぷり浸かっている人は大きな頭の切り替えが必要かもしれない。
■営業の限界を打破するまったくちがったセールスの方法
インサイドセールスの特徴は、まず「リード」と呼ばれる見込み客へのアプローチから始まることだろう。
これまではテレアポをして1件ごとに様子を見て、訪問のためのアポイントを取り、そこから商談に入る。そのため、限られた数しかアプローチすることができず、その後のケアも1件ごとに気を遣う必要がある。
しかし、インサイドセールスでは、電話やメールを活用するため、1日多くのリードと接することができ、そのリードの関心度合に合わせ、適切なアプローチができるのもメリットだ。
リードと呼ばれる見込み客は、セミナーで名刺を交換するなどして獲得する。そして、インサイドセールスなどで様子を見ながら、受注する可能性の高いリードにフィールドセールスでアプローチをかけるのである。
また、著者はもう一つ重要な概念を教えてくれる。それが「アジャイル」だ。「アジャイル」は英語で「機敏な」という意味で、ソフトウェア開発の手法の一つとして知られる。
これまではソフトウェアは完成された形でユーザーに提供されることが当たり前だったが、「アジャイル」型開発では、おおよその要件を定義し、細かくPDCAを回しながら少しずつ開発していくという方法をとる。
環境の変化が激しいIT業界において、この柔軟性は必要不可欠だ。
この「アジャイル」を組織運営に応用することができる。その5つのアプローチのカギが下記となる。
〈アジャイルアプローチ5つのカギ〉
1.変化に柔軟な対応
2.取り組みを小さく、素早いサイクルで回す
3.取り組みへの評価と反省
4.誤解を解きほぐす情報共有
5.組織の枠組みを超えた協力体制
(p.43-44より引用)
「アジャイル」は常に変化し続ける環境に対する柔軟性をもたらすと同時に、分断されていた業務の壁を越えて、組織全体で改善を進めることを促す。
例えば、営業マンが商談で「気付き」を社内に持ち帰ったとき、それをフィールドセールスだけでなくマーケティングやインサイドセールスにも共有し、全体で議論を行う。その「気付き」をインサイドセールスのオペレーション改善に生かせそうなら、すぐに新しいオペレーションを試す。そこからまた課題をあぶり出し、素早く改善する。