山際淳司氏の短編ノンフィクション「江夏の21球」で有名な元プロ野球選手の江夏豊氏。現役時代は阪神タイガースなど5球団で活躍、「優勝請負人」の異名をとり、現在も20世紀最高の投手の一人として名前があがる。
江夏氏のプロ野球生活は18年におよんだ。その間にのべ1218人の打者と対戦した。やりにくかった打者、怖かった打者などなど、数々の強打者との対戦を「江夏豊の視線」で語るのが、『強打者』(江夏豊著、ワニブックス刊)だ。
■江夏豊が一目置いていた先輩・後輩
鈴木忠平著『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(文藝春秋刊)で話題の落合博満氏も江夏氏と対戦した打者の一人。ロッテ、中日、巨人などで1980~90年代に活躍し、三冠王を3度獲得。引退後も監督として中日を4度のリーグ優勝、1度の日本シリーズ優勝に導いた名将でもある。
本書では、江夏氏がと落合氏と麻雀をした際のエピソードがを本書では綴られている。「いい打者っていうのは、同じ球種をずっと待つもんだ。オチ(落合)みたいに1球1球、狙いを変えてくるほど、投手にとって打ち取りやすい打者はいないんだよ」と落合氏に話したところ、その翌年に対戦した際、同じ球を待ち続けられるようになった落合氏に空恐ろしさを江夏氏は感じたという。
また落合氏については「狙って本塁打を打っているのだろう」と江夏氏は評する。通算500安打、1000安打、1500安打、2000本安打、1000試合出場、2000試合出場と、節目の記録は全て本塁打で達成しているからだ。
一目置いていた後輩が落合氏だとしたら、テレビ番組『サンデーモーニング』(TBS)のスポーツコーナー「週刊 御意見番」で「喝」「あっぱれ」でお馴染みの張本勲氏は江夏氏が注目していた先輩だ。
1960~70年代頃に、東映フライヤーズ(現・北海道日本ハムファイターズ)、巨人、ロッテで活躍し、通算3000本安打を達成。誰もが認める「安打製造機」として名をはせた。豪快なイメージのある張本氏だが、野球そのものは意外に「スモールベースボール」で、若い頃は遊前に転がして足で稼ぐ内野安打も多かった。俊足であり、63年にはシーズン41盗塁をマークしたほどだ。バットを捕手寄りに倒して始動する独特のフォームで知られ、「バットは振り抜かなくていい。投球にぶつければ飛んでいく」がバッティングの持論だった。のちに落合氏、イチロー氏など、強打者はたくさん出てきたが、それまでの第一人者といえば、張本氏がトップだろう、と江夏氏は述べる。
本書では、江夏氏が現役時代に直接対戦した打者のほかにも、山田哲人選手(東京ヤクルトスワローズ)、岡本和真選手(読売ジャイアンツ)、大谷翔平選手(ロサンゼルス・エンゼルス)等、現役選手についても分析している。
往年の名投手・江夏豊氏が強打者たちをどう見ているのかを本書から知ることで、よりプロ野球を楽しく観戦できるはずだ。(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。