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ミドルエッジ「懐かしい! をお送りします」

手塚治虫、没後30年…昭和の終わりと共に逝ったマンガの神様の「未完の遺作」を追う!

文・構成=ミドルエッジ
手塚治虫、没後30年…昭和の終わりと共に逝ったマンガの神様の「未完の遺作」を追う!の画像1※参考画像:『ネオ・ファウスト』(手塚治虫文庫全集)講談社(amazonより)

 あなたにとって「懐かしい」とは、どんな情景でしょうか? 1970~90年代の「懐かしい」を集めたのが「ミドルエッジ」。あなたの記憶をくすぐる「懐かしい」から厳選した記事をお届けします。

 今回のテーマは、手塚治虫・未完の遺作。死の間際まで完成にこだわりながらも未完に終わってしまった『ルードウィヒ・B』『グリンゴ』『ネオ・ファウスト』の3作品について振り返っていきます。

没後30年を迎える“漫画の神様”

 漫画の神様・手塚治虫がスキルス胃がんにより亡くなったのは、平成が始まって間もない1989年2月9日のこと。今からちょうど30年前の出来事です。

 その生涯で書き上げた作品数は、実に約700タイトル。ページ数にして約15万枚だといいます。作品群に目を向けると、近未来SF作品の金字塔『鉄腕アトム』や、少女漫画の先駆的存在として知られる『リボンの騎士』、医療漫画の元祖『ブラックジャック』、時代物の『陽だまりの樹』『シュマリ』『アドルフに告ぐ』、セクシャルな要素をふんだんに取り入れた青年向けの『MW』や『奇子』など、実に多種多様。一人の人間がこれほど幅広いテーマを取り扱えるのかと、驚かざるを得ません。

 そんなキャリアを通して縦横無尽な創作意欲と博覧強記ぶりを発揮し続けた手塚ゆえに、遺作となった『ルードウィヒ・B』『グリンゴ』『ネオ・ファウスト』の3作品も、それぞれ全く異なる主題が描かれており、いずれも完結していたら大傑作になること間違いないであろう魅力的な内容になっています。

ベートーヴェンを描いた伝記漫画『ルードウィヒ・B』

手塚治虫、没後30年…昭和の終わりと共に逝ったマンガの神様の「未完の遺作」を追う!の画像3※参考画像:『ルードウィヒ・B』(手塚治虫文庫全集)講談社(amazonより)

 まず『ルードウィヒ・B』から説明していきましょう。こちらは1987年から89年にかけて雑誌「コミックトム」(潮出版社)で連載された作品。タイトルが示す通り、世界的音楽家ルードウィヒ・ヴァン・ベートーヴェンを主人公にしていますが、母の仇である「ルードウィヒ」という名前の人間に異常な憎悪を抱くオーストリアの貴族・フランツも第二の主人公として描かれており、2人の因縁の物語になっています。

 史実の人物と架空の人物を主人公格に据えて、その運命が交錯し合う伝記漫画という点では、手塚の曽祖父・手塚良庵を主人公にした幕末モノ『陽だまりの樹』に近いかもしれません。

 人間としてはだらしないものの、100年に1人と言われる天才的な才能でベートーヴェンに影響を与える師匠格のモーツァルトをはじめ、キャラ立ちした人物が多数登場する同作。重厚で濃密な人間ドラマが展開される歴史巨編になるかと思われましたが、手塚の病状悪化により途中から駆け足気味に物語が進み、結局、完結することなく「コミックトム」89年2月号をもって絶筆となってしまいました。

社会派サスペンス『グリンゴ』には奇妙な偶然が

手塚治虫、没後30年…昭和の終わりと共に逝ったマンガの神様の「未完の遺作」を追う!の画像4※参考画像:『グリンゴ(1)』(手塚治虫文庫全集)講談社(amazonより)

『グリンゴ』は、南米リド共和国の商業都市カニヴァリア(ブラジルがモデル)に駐在することになった大手商社社員の主人公・日本 人(ひもと ひとし)を通して、「世界の中における日本人の異質さ」を浮き彫りにする、手塚のシニカルな視点が冴える社会派サスペンス。87年から89年にかけて「ビッグコミック」(小学館)にて連載されていました。

 ちなみに、作中では主人公・日本が巻き込まれるゲリラによる誘拐事件の様子が描かれているのですが、これは86年に発生した三井物産マニラ支店長誘拐事件がモチーフ。この事件の被害者だった若王子信行氏も、手塚と同じ89年2月9日に亡くなっているというから、なんとも不思議です。

『ネオ・ファウスト』に込められたメッセージとは?

手塚治虫、没後30年…昭和の終わりと共に逝ったマンガの神様の「未完の遺作」を追う!の画像1※参考画像:『ネオ・ファウスト』(手塚治虫文庫全集)講談社(amazonより)

 3作品の中で、手塚が特に完成させることに執着し、死の間際まで痛み止めのモルヒネを打ちながら執筆したと言われているのが『ネオ・ファウスト』です。

 同作の舞台は、70年代の東京。主人公の一ノ関教授は、生命の秘密と宇宙の神秘を解き明かすことに50年の月日を費やしたものの叶わず、絶望して自殺しようとしていました。そこに魔女メフィストが現れ、新しい生命と新しい人生を授け、さらには、58年へタイムスリップさせます。過去に戻って美しい青年として生まれ変わった一ノ関教授は「坂根第一」と名前を改め、「生命を造り出す造物主になりたい」という野望に向かって動き出すのです。

 この作品で注目したいのは、主要登場人物の一人・坂根第造についての描写。彼は作中、手塚同様、胃がんが原因で亡くなっており、手塚と同じように本人へは「胃潰瘍」とだけ伝えられています。しかも、親族が医師から告げられる「せいぜい3カ月…長くて4カ月というところです」という余命まで、手塚が倒れてから没するまでの期間とほぼ合致しているのです。

 当時の慣習に則り、手塚にはがんの事実は最後まで伏せられていたといいます。しかし、もしかしたら医学博士でもある手塚本人は自身の死期をなんとなく悟り、そのために「体を若返らせたい、もう一度人生をやり直したい、まだまだやり残したことはあるんだ」と口にする一ノ関教授に自らを投影して、最後の力を振り絞って筆を握っていたのかもしれません。

 この連載では次回以降も皆さまの脳裏に「懐かしい」が蘇りそうな記事を提供して参ります。「こんな記事は?」「あのネタは?」なんてお声も、お待ちしておりますので、よろしくお願いいたします。
(文・構成=ミドルエッジ)

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